無愛想な王子は理想の花嫁に求婚する
「これは誓約書だ」

「誓、約……?」

「これまで王宮に入りその内情、建物や部屋の配置など一般の者が知るはずのない事、これまでの講義などで教えられた重要な情報を決して漏らしてはならない。
さらには婚約者たるティアナに関するどのような事も口外することは許されない」

「姉さんの……?」

「例えば、最初にティアナが化け物だと言っていたな……そんな戯れ言を言いふり回った場合でも誓約を破ったと見なす」

「そんな……っ!化け物なのは本当のことで……っ!!」

尚も言い募ろうとしたアネッサは途端に肩を跳ねさせ硬直した。
殺気を込めた視線に気付いたのか、赤かったはずのその顔を真っ青に染まっていた。

「何者であろうと、俺の婚約者を侮辱する者は許さない。
誓約を一つでも破った場合、一生日の光を拝めない場所にでも幽閉してやる」

その言葉に、アネッサは糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
ナタリーが誓約書を受け取りアネッサに震える手でサインさせると大切に折り畳み差し出してきた。

「今日中に荷物を纏めて王宮を出ろ。
そして、二度と俺とティアナの前に現れるな」

言い捨てて返事を聞かずに部屋を出る。
ついて来たナタリーが、殿下も人が悪いですね。と言ってきたので横目で見ると、表情を変えずに前を見たまま話し出した。

「アネッサ嬢が受けた講義のどこにも、重要な情報になるようなものはなかったはずです」

「そうだったか?」

「はい。
さっきの誓約書、全てはティアナ様に関することを口外させないための物ですよね?」

どうだがな、と惚けてみせるが乳兄妹のナタリーにはお見通しのようで笑われてしまった。
何はともあれ、やっとティアナとの儀式に集中できることに久々に晴れやかな気持ちになった。
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