無愛想な王子は理想の花嫁に求婚する
波乱の幕開け
【ティアナはユアンと結婚するの?】

久々に勉強やレッスンのない朝、ティアナは中庭にやってくるとすぐに動物達に囲まれた。
みんなユアンとのことを聞きたかったらしく、じっとティアナを見つめている。

【わからない……。
でも、私は誰とも結婚なんて……】

【どうして?
私達と話せる不思議な力を持っているから?】

その言葉にティアナはドキッとした。
動物達の目は真っ直ぐで、誤魔化しはききそうにない。
ティアナは躊躇いながらもこくん、と頷いた。

ティアナは生まれつき声がでなかった。
両親はそんなティアナを愛情をもって育ててくれていた。
文字の書き方や読み方を必死になって教えてくれる優しい両親だった。

ある時、ティアナに妹が生まれた。
妹はちゃんと声が出た。
両親は次第に妹にばかり目がいくようになった。

幼い妹、目が離せない年頃、仕方のないことだとわかってはいたがティアナは寂しかった。
声のでないティアナはこちらを見てもらわないと、言葉が届かない。
けれど、ティアナ自身を、ティアナの言葉を、両親が“見る”ことは減っていった。

ある日、家族で旅行中に盗賊に襲われた。
妹が連れ去られそうになったとき、ティアナは叫んだ。

誰か助けて!!

その瞬間、至るところにいた獰猛な動物達が盗賊を襲った。
逃げていく盗賊、その盗賊を追い払った動物に囲まれる笑顔のティアナ。
その光景に両親は畏れに似た感情を抱いた。
妹はティアナの口の動きを見ていた。
そして叫んだ。

ティアナは動物を操る化け物だと。

その瞬間、気が動転していた両親はティアナを置いて馬車を走らせた。
止まることはない、振り返ることもない、ティアナの声は届かない。

ティアナはこの時初めて知った。
誰も動物の声を聞くことも、話すこともできないことを。
他の人と違う自分は“化け物”なのだということをーー

そして、両親と妹はそれきり、ティアナの前に現れることはなかった。
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