あの日勇気がなかった私たちは~卒業の日~
一人で靴を履き替え、正門を目指して歩く。
この時間になると運動部も半分以上は帰宅していて、正門までの道のりも私しか歩いていなかった。

街灯もあるから、校舎内のように不気味ではない。
でも吹奏楽部にいた頃は必ず愛と帰っていたし、愛以外にもたくさんの部員が固まって駅まで一緒に歩いていたので、一人で歩くのは少しさみしさを覚える。

もうすぐハロウィン。まだまだ日本ではクリスマスほどのビッグイベントになっていないけれど、学生にとっては楽しみの一つ。学校でただお菓子を交換するだけでなく、放課後にお菓子パーティーをしたり、仮装をしたり。楽しみ方はひとそれぞれだ。

だが受験生の私たちには関係のない話。もちろん私たちだってずっと勉強なんてできないから、お菓子の交換くらいはするだろう。でもハロウィンをおもいっきり楽しむ余裕はない。

ハロウィンが終わればすぐに11月がやってくる。センター入試まで三ヶ月、私大入試まで四ヶ月。そして卒業まで五ヶ月・・・

「もう半年切ってるのかぁ」

勉強が思うように進んでいなくて、焦る気持ちもある。でもあまり入試という実感も、卒業という実感もない。
こんなので大丈夫だろうか。

もうすぐ高校生活最後の冬がやってくる。そして寒い冬を乗り越えると春が来る。
次の春には私は大学生。
自分がもうすぐ大学生という実感もないし、大学に行けるかもわからない。

誰もいない帰り道がみえない未来をさらに不安にさせる。
まるで私の周りからみんな去って行くようなーーー
< 28 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop