あの日勇気がなかった私たちは~卒業の日~
どんなに私に入試という実感がなくても、みえない未来に不安になっても時間は過ぎていくわけで。
ハロウィンも特別なにか特殊なことが起きることもなく、気づけば11月になっていた。

私はあれからずっと放課後は教室に残って勉強を続けていた。
不思議なことに一ノ瀬くんも。
愛と三人で話したときは彼女の塾がないときは一緒に帰っているといっていたのに、毎日教室に残っている。それも私よりも長く。

それでも私は彼になぜ毎日残っているのか聞く気もなかったし、二人の間に会話なんて一つもなかった。


ほかのクラスメイトが帰宅した後、吹奏楽部の練習する楽器の音色と運動部のかけ声をBGMにただ黙々と勉強をする。
参考書やノートをめくる音、筆箱からペンを出す音、それくらいしかほかに音はない。
そして六時半になれば私が帰る。
それが私と一ノ瀬くんとの間にできた無言の約束だった。
いや、私が勝手にそう思っているだけなのだけど。


窓側の列の前から二番目の私と、真ん中の列の一番後ろの一ノ瀬くん。
会話は存在しないし、目を合わすこともない。
それでもこの空間は私にとってとても心地よい空間だった。



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