あの日勇気がなかった私たちは~卒業の日~
放課後、誰もいなくなった教室で私は二学期同様勉強をする。
ううん、もう一人じゃない一ノ瀬くんがいる。

久しぶりに一ノ瀬くんの姿を見ることができて嬉しいと思う。
冬休み会えなかったぶん沢山話したい、そんな風に自分が思うことにまず驚くけれどとりあえず今は我慢。きっとまた六時半を過ぎれば話せるから。


予想どおり、六時半になるとどちらからともなく参考書をとじる。
それが会話の始まる合図。


「なんかこういうのも久しぶりだね」

「うん、桜庭さんは冬休みになにか映画みた?」

「ううん、勉強ばっかり」

「俺も。早く解放されたいよ」


久しぶりの会話でもちゃんと会話のキャッチボールが続くことにほんの少し安堵する。
しばらくあいた分また私たちの関係がリセットされないかほんの少し心配だったから。


三学期になり入試が刻一刻と迫る今、私たちの会話も入試の話がおおくなり、映画の話はあまりしなくなった。

「じゃあ桜庭さんはセンター試験受けるんだね。俺と同じだ」

「あ、一ノ瀬くんも受けるんだね」


私たちは二人とも文系として今まで高校に在籍していたので、大学ももちろん文系の学部を志望している。
しかし何学部なのか、どこの大学が第一志望なのかはお互い教えていなかった。

私は別に一ノ瀬くんに教えたくないから黙ってるわけじゃない。ただいうタイミングがないだけ。
たぶん一ノ瀬くんも同じような感じのはず。

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