あの日勇気がなかった私たちは~卒業の日~
「澪、大丈夫?」

愛がこっそりと尋ねてくる。

「大丈夫・・・じゃないかな」


その返事を聞いた愛はおもむろに私の手をつかむと、

「ちょっと私たち莉子のクラス行ってくるね~」

周りの子にそういって外に連れ出してくれた。


「ありがとう、愛」

「ぜんぜんたいしたことないよ」


そのまま愛は私の手を引いて、莉子を呼び出し屋上に向かった。
こんな日に屋上に来る人なんていないからここだと誰にも話を聞かれずにすむ。


「で、朝からどうしたの?」

「それがね・・・」

愛が莉子に説明している間、私の頭の中は九重さんには敵わない、勝ってこないという考えばかりがぐるぐるとループしていた。


「なるほどね、それで何で澪はそこまで落ち込んでるの?」

「え?だって九重さんが告白するなら私に勝ち目ないし・・・」

「あのさ澪、目的はき違えてない?」

「え?」

目的をはき違える・・・?


「九重さんの目的は告白して付き合うこと。だけど澪は?とりあえず気持ちを伝えるんじゃなかったの?それとも付き合いたくなった?一ノ瀬くんと付き合えるのはたった一人だけど、告白をする人は何人いてもいいんだよ。早い者勝ちじゃない」


そうだ、私はいつの間にか目的を見失っていた。
一ノ瀬くんと付き合いたいなんてたいそうなことは願ってない。ただこれから先前に進んでいくためにも、想いを伝えたいだけだったんだ。
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