あの日勇気がなかった私たちは~卒業の日~
「もう帰ろう」

誰にいうでもなく、ぽつりとつぶやいた。
もう5時だ。今日は卒業式だったから、最終下校は五時半だったはず。
そろそろ帰らなければ。


最後に校舎を一周して帰ろうかと思ったけれどやめた。そんなことをしてもし二人寄り添う一ノ瀬くんと九重さんを見てしまえば、耐えられない。


誰もいない校舎は静まりかえっている。
その中を一人歩き靴を履き替える。今日でこの靴箱ともサヨナラだ。




さっきも思ったけれど、本当に夕陽がきれい。

「きれい、だな・・・」

正門をでた途端涙があふれてきた。
だけど誰もいないから、止めようとは思わない。


今日くらい泣いたっていいよね。
自分で勝手に決めつけて駅までの道を歩いて行く。


学校では確かにだれにも会わなかったけれど、駅までの道には当然人がいる。
だから泣きながら歩く私を見てぎょっとした顔の人たちがいたけれど、そんなこと私は気にしなかった。


電車に乗って、家の最寄り駅で降りる。
そこから家までの道のりをゆっくり、いつもの倍くらいの時間をかけて歩いた。



< 93 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop