あの日勇気がなかった私たちは~卒業の日~
私は一ノ瀬くんに想いを伝えることさえできなかった。
これが最後のチャンスだったにもかかわらず。一ノ瀬くんの進学先は知らない。だけど私の進学先に同じ高校の人はいないと進路指導の先生に聞いていたから、少なくとも大学で奇跡の再会なんてものはない。


「初恋は叶わないって、本当のことだったんだなあ・・・」

よくマンガや小説で聞く台詞。だけどどうやら本当のことだったようで。


今日という日はきっとこの先も忘れないだろう。いや、いつかは忘れる日が来るかもしれない。だけど当分忘れられないだろう。

電車に乗る頃にはひいていた涙がまたあふれる。

弱かった。私は好きという気持ちさえ伝えられないほど臆病な人間だった。
なんで、『好き』これだけの言葉が伝えられなかったの。


幸い今日は両親が二人とも出張でいない。だから思う存分部屋にこもって泣ける。
莉子と愛にもいわなきゃいけない。あんなに応援してくれたのに、何もできなかった。

だけど伝えるのは明日にさせて欲しい。今日だけはこの悲しみに、悔しさに溺れていたい。


すぐに立ち直れないだろう。だけど明日からはもう今日のことで泣かない。大学生活という新しい生活が待っているのだ。いつまでもくよくよできないから。


家に入る前、最後にもう一度だけ夕陽に染まった赤い空を見上げる。

「一ノ瀬くん・・・好きだよ。ううん、好きでした・・・」

完全に吹っ切れないかもしれないでも、少しでも吹っ切れたくて。
だから、まだ好きだけれど無理矢理過去形にした。
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