スイート ジャッジメント 番外編
「……武田?」
「え、なんで?!」
「え、マジで? 割と適当だったんだけど」
「……」
「マジか。桜庭……」
「知ってるよ。湊は……その事は最初から知ってたの」
知ってて、忘れさせてあげるって湊は私に言ったんだから。そして、その言葉通りに、私は湊に懐柔されてしまったのだと考えると、少し複雑だし、気恥ずかしい。
「あれ? でも武田ってさぁ……」
ちらりと林くんは私の隣にいる若菜に視線を向けて、明確な主語を敢えて抜いて、「去年の夏頃、付き合ってたよね?」と小声で訊いてきたので頷いた。
「……武田は知らない?」
「うん。多分、知らないと思う。……言わないで、ね?」
「ん、言わない。てか、言えねー。そりゃ桜庭、武田相手に本気になるわけだ……」
苦笑いして一旦試合に視線を戻した林くんは「だめだ」と笑ってすぐにこっちを向いた。
「それ聞いたら、試合観てるだけで笑えてくるんだけど、どーしてくれんの?」
「頑張って笑わないで観てあげて」
尚も喉を鳴らして笑う林くんに、複雑な気持ちで返す。そんなに笑わないでよ。私だって、笑うに笑えないんだから。