燻る紫煙
私があの人と出会ったのは半年前。

残暑が厳しい、9月の終わりだった。

「沙耶加、ちょっと」

オフィスでパソコンに向かって、ひたすらデータ入力という単純作業をしていた私に、昼休憩を終えた同僚の麻里が話しかけてきた。

「どうしたの?」

そう尋ねると、麻里は私の手をひいて女子トイレへ。

バタン。

麻里が乱暴に扉を閉めると、落胆したように息を吐き出し、

「岡崎さんがね、結婚するらしいのよ」

そう言った。

岡崎さんというのは、同じ顧客管理部門にいる私と麻里の2つ下の後輩の女の子。

私たちの2つ下ってことは……

「まだ25才なのに」

私が計算するよりも早く、麻里がそう言い捨てた。

「同期の女の子の中でまだ結婚してないの私たちだけだって言うのに、岡崎さんに先越されるなんて」

確かに、この年で結婚の予定がないのは、確かにあせる。

結婚の予定どころか、私と麻里は彼氏さえいない。

麻里は、昔からとっかえひっかえ彼氏を乗り換えていて。

27才になってからは急に出会いが減ったという。

私は、大学時代から付き合ってきた人と2年前に別れたきり。

なかなか好きになる人ができなかった。

「……沙耶加、聞いてんの?」

ぼんやり考えていたら、麻里が怒って。

「こうなったらヤケ酒よ、今日の帰りはつぶれるまで飲むからねっ!」

お酒でも飲まなきゃやってられない、か。
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