燻る紫煙
その夜。

私と麻里は会社から2つ離れた駅の近くのバーで飲んでいた。

一体何杯飲んだんだろう。

お酒の強い麻里と同じペースで飲んでたら、

いつの間にか頭がボーっとして何も考えられなくなっていた。

丸いスタンドテーブルの向かいには、ワイングラス片手に愚痴っている麻里の姿。

静かなジャズの音色に耳をかたむけていたら、だんだん意識が遠のいていく……

カタッ。

はっと気づくと、

目の前には鮮やかなブルーの液体が入り、縁にはグレープフルーツが一切れ差し込まれた、

二つのグラスが置かれていた。

「チャイナ・ブルーです。あちらのお客様がぜひお二人にと……」

そう言われて私と麻里は顔を見合わせ、店員が示す方向に目をやると、

カウンターに腰掛けたスーツ姿の二人の男性が目に入った。

すると麻里が私の腕をぎゅっとつかみ、

「ちょっとぉ、チャンスじゃない?あの二人、あたしたちに気があるのよ!」

と目を輝かせて言う。

「行ってみましょ!」

麻里がさっと立ち上がると、

「ちょっと待ってよ」

気が進まない私の制止する声も聞こえないようで、カウンターに向かって歩き出していた。

その場に残るわけもいかず、私も麻里の後を追った。

「お酒、ありがとうございます」

麻里の声に、カウンターに座っていた2人が振り返る。

ちょうど追いついた私は、そのうちの1人の男の人と目が合った。

黒のストライプのスーツに、

ワインレッドのネクタイ。

黒い短髪、

一重で切れ長の目。

目。

……あの人の目は、心なしか少し寂しそうで、

そして冷たかった。
< 3 / 38 >

この作品をシェア

pagetop