燻る紫煙
昨日のことはよく覚えていない。

私と麻里はバーで出会った男性たちと、他愛もない話を交わした。

話が進むごとに、目の前で空になっていくグラスが増えた。

どのくらい時間がたったのだろう。

「そろそろ出ようか」

誰かがそう言って、立ち上がろうとしたら、

脚がもつれて膝をつき、私はその場に倒れてしまった。

「ちょっと沙耶加、大丈夫?」

「だいぶ酔ってしまったみたいだね」

「彼女、家は?」

「白鷺駅からすぐなんだけど……」

「俺、通り道だから駅まで一緒に行くよ。着く頃には酔いも冷めてるだろう」

「大丈夫かなぁ……」

私の頭の上で3人が話している。

私はあの人に支えながら店の外へ出た。

……。

気づいたら、私はビジネスホテルの一室のベッドの上に横たわっていた。

どうしてここにいるのか、

どうしてこうなったのか、

何も覚えていない。

ただ覚えているのは、

私を強く抱きしめるあの人の体と、

もっとあの人のことを知りたいと思う私の気持ち、

そして部屋に残る煙草の香りだけだった。
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