それならいっそ、消えてしまおう
第1章

隠し事

幸せって長くは続かない。

…彩side…

私の名前は 桜樹 彩 高校2年生。運動することが大好きでソフトボール部所属。頭はそんなに良くないけど、私には成績優秀、眉目秀麗、運動神経抜群のチートキャラのような恋人 黄金川 俊哉 のお陰で赤点は回避されている。

付き合い始めて3年と、結構長い付き合いだけど、私には大きな試練が残ったままになっている。

中学3年生のとき俊哉と1年記念日でデートをすることになっていた。なのに、頭痛と吐き気に襲われすぐに病院に行くことになってしまった。その時はなんとか言い訳を作ったのだけれど、その病院の先生から私では理解できないことが突きつけられていた。

それが今も尚、俊哉に隠し続けている病気のことについてだった。

私以外の事例がない、治療法も薬も、病名さえも分かっていない原因不明の不治の病。

バカな私にはよく分からない説明が長々とされて、唯一分かったのが私が長くはないことだった。
余命宣告ってやつだと思う。
高校を卒業できないかもしれません。そう言った先生の口調に抑揚はなくて、ロボットみたいに文字を並べただけだった。

隣にいるお母さんは肩を震わせながら泣いていて、なのに私は涙の一つも出なくて、ただただ、頭の中には俊哉のことしかなかった。

もともとお父さんのいない私の家の家計では私の治療費なんて払えるはずがなかったから、癌とかじゃなくてよかったって少し安心したのはお母さんには内緒なんだけどね。

それから3年、私は俊哉にずっと言えていないまま。

余命は残り1年。



…俊哉side…


俺にはバカでおっちょこちょいで、でも、可愛くて、ほっとけない彼女がいる。

今年で付き合って3年となかなかの長続きカップルだ。

その3年で彼女のことをよく知ってきたし、彼女の癖なんかももちろん分かるようになった。


だから、分かるんだ。
俺への隠し事があること。


一年記念日をしようと彩とデートの約束を取り付けた。彩は喜んでいたのに、その日は

【ごめん。今日用事入っちゃって…一年記念日だったのに、本当にごめんね。】

断りのメール一本で電話も用事の内容も何も聞かされなかった。

その日を境に、彩は俺へ隠し事をするようになった。

誤魔化す時、嘘をつく時、目を合わせず少し早口になること。

それが彩の癖なのに本人は全く気づいてないから俺からしたら分かりやすいったらありゃしない。


でもまぁ、来年は高校3年生で遊んだりも減るだろうから、今年が彩の隠し事を聞き出す最後の時間かもしれない。


何を隠してんのかは分からないけど、俺が力になれるなら俺はなんだってしてやるつもりだ。
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