あなたを、海賊の僕が奪うから

どこまでも続く広い海の上に1隻の船が浮かんでいた。その船の先から少女が双眼鏡を使い、船の進行方向を眺めていた。

彼女の名前は、潮田 香織(しおた かおり)。彼女は――海賊だ。

「香織、何か良いものは見つかった？」

そんな彼女に近づく少年が1人。彼の名前は、青木 湊(あおき みなと)。彼も香織と同じ海賊だ。

「…うるさい。話しかけてこないで」

香織は、無表情のまま湊に言い放った。湊の顔を見ようとはしない。

「…キャプテン。もうすぐ、昼食の時間ですよ？」

湊は意地悪そうな笑みを浮かべながら、香織の双眼鏡を奪った。

「返せ。てか、話しかけないでって言ったよね」

香織は、湊を冷たい目で見ながら言った。湊は、無言で笑う。香織が双眼鏡を湊の手から取ろうとしても、湊はそれを軽々と避けた。

「ダメだよ。昼食はとろうね…じゃあ、僕は船室に戻っているから～」

ふわっと欠伸をしながら、湊は香織の双眼鏡を持ったまま船室へと入っていく。

(あ、私の双眼鏡が…返してもらわないと。てか、湊だけだよ。私を名前で呼んでくるやつ)

香織はそう思いながら、船室へと入った。船室の中は、香織をキャプテンに率いる海賊が、集まっていた(と言っても香織と湊含めて6人だが)。

「あ、キャプテン！早く食べましょうよ！」

船乗りである森本 海斗(もりもと かいと)が香織を見ながら微笑んだ。

香織は、湊の姿を見つけて近寄る。双眼鏡を返してもらうためだ。

「香織、昼食を取り終えるまでは返さないから…ほら、座って」

香織は深いため息をつき、用意された昼食をとりはじめた。香織自信は、食事をとることは嫌いではない。しかし、海賊のことになると食事をとらないでずっと集中するのだ。

良く、湊に強引に海賊の世界から連れ戻される。香織は、その事を何も思っていなかった。