溺れろ、乱れろ、そして欲しがれ
ドキドキの接近
講演会もその後の会食も滞りなく終わった。

会食先の送迎も済んで、ホテルの自室へ戻ろうと階のボタンを押した。

「なぁ、一杯付き合ってよ」

バーラウンジがある最上階へボタンを押し直す。

「今日のまとめをしなきゃないんですけど」

「まだ20時だ。少しくらいいいだろ」

「これは経費で落ちませんからね。東雲さんの奢りですよ。」

クスッと笑って、無造作に私の髪をクシャクシャと巻き上げた。

襟足が露になって、居たたまれない空気が漂う。

「な、なんですか?」

「んー、きれいな襟足だと思って。」

「は?セクハラっ!」

巻き上げられた髪を振りほどきたいのに、襟足に集中した視線が痛くて恥ずかしくて、うつむくしかなかった。

いつまでこの状態でいる気だろうか

指先まで熱が浸透して苦しい。

ちゅっ。

っと、ジンとした痛みと共にエレベーター内に音が響いた。

えっ?

なに?ちょっと、何してんの?

「俺の、付けちゃった」

耳朶に唇が触れるか触れないかの距離で喋んないでよ。

「もう!何してるんですか!」

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