嘘つきは恋のはじまり
***

今日もいつも通り仕事に向かい、定時で上がって病院へ行く予定だ。
それなのに、昼休憩の時間に携帯が鳴った。

「もしもし、お父さん?」

「咲良、今病院から電話があって、母さんが脱水症状になったって…。」

慌てた様子の父は早口でそう告げる。

「わかった。すぐ病院へ行く。」

私は昼食もそこそこに、上司と同僚に帰る旨を伝えて病院へ急いだ。

派遣社員として大手企業で受付業務をしているけど、職場内のフォロー体制が整っているので急なお休みにも対応してくれる。それがとてもありがたい。
さすが大企業とでも言うべきか。
もちろん急に抜けて迷惑をかけてしまうことは必至だけど、今はそれどころではないのだ。

緊張で心臓が痛いほどドキドキしている。
脱水症状だなんて、一体どういうことなのか、母の体に何が起こっているのか不安でたまらない。

病院までバスですぐのはずなのに、今日は妙に長く感じられた。
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