嘘つきは恋のはじまり
こういう場面に慣れていないっていうのもあるけど、私は断るのが苦手だ。
だけど精一杯の怒り口調で言う。

「もう、嫌だって言ってるでしょう。」

掴まれそうになった腕を引いて冷たくあしらう。
冷たくしても酔っぱらいは怯まない。
それどころかニヤニヤしている。

どうしよう、走って逃げようか。
逃げられるだろうか。

そんなことを考えあぐねていると、ぐいっと腰を引かれて私は驚きのあまり「ぎゃっ」と可愛くない悲鳴を漏らした。

私の目の前には酔っぱらい2人組。
じゃあこの状況は一体何?

テンパりながら恐る恐るそちらを見ると、酔っぱらいイケメンなんて比じゃないくらいのスーツのイケメンが、私を自分の胸に引き寄せていた。
この状況に頭の処理がついていかない私は、ポカンと彼を見上げてしまう。

「お待たせ。さあ、行こうか。」

イケメンは私をそのまま方向転換をさせると、スマートにエスコートするように酔っぱらいへ背を向ける。

「お前、何だよ!」

酔っぱらいが更に絡んでくるところ、スーツのイケメンはこう言い放った。

「俺の彼女に手を出すなよ。」

若干睨みを利かせた低い声で言うと、酔っぱらいは少し怯んだようだった。
その隙を見てスーツのイケメンは私の手を引いて小走りでその場を離れる。

私は呆気に取られたままスーツのイケメンに手を引かれ、その場から一緒に逃げた。
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