嘘つきは恋のはじまり
***
手術の日は仕事を休んで朝から病院へ来ている。
付き添いという名目だけど、特にやることはない。
看護師さんが朝からバタバタと働いているのを邪魔にならないように母の近くで見守っているだけだ。
こういう時、母に何て声をかけたらいいんだろう。
何も思い浮かばない自分の経験値の低さに頭が痛い。
刻々と時間は過ぎ、ついにその時がきた。
手術室の前で母に声をかけるも、出てきた言葉はありきたりなものだった。
「お母さん頑張ってね。」
「頑張るもなにも、お母さんは麻酔で寝てるだけよ。」
「気力が大事なのよ。」
私の言葉に、母は「はいはい」と軽く手を振る。
手術室のドアの前まで来ると、込み上げるものがあって私は唇を噛んだ。
大変なのは母であり、励まさないといけない立場なのに、こんなにも弱い自分でどうするんだ。
そう思うのに、胸が押し潰されそうになる。
手術室の奥からは「お名前教えて下さい」と確認されている声がうっすら聞こえて、やがて扉がピッタリと閉まって何も聞こえなくなった。
手術の日は仕事を休んで朝から病院へ来ている。
付き添いという名目だけど、特にやることはない。
看護師さんが朝からバタバタと働いているのを邪魔にならないように母の近くで見守っているだけだ。
こういう時、母に何て声をかけたらいいんだろう。
何も思い浮かばない自分の経験値の低さに頭が痛い。
刻々と時間は過ぎ、ついにその時がきた。
手術室の前で母に声をかけるも、出てきた言葉はありきたりなものだった。
「お母さん頑張ってね。」
「頑張るもなにも、お母さんは麻酔で寝てるだけよ。」
「気力が大事なのよ。」
私の言葉に、母は「はいはい」と軽く手を振る。
手術室のドアの前まで来ると、込み上げるものがあって私は唇を噛んだ。
大変なのは母であり、励まさないといけない立場なのに、こんなにも弱い自分でどうするんだ。
そう思うのに、胸が押し潰されそうになる。
手術室の奥からは「お名前教えて下さい」と確認されている声がうっすら聞こえて、やがて扉がピッタリと閉まって何も聞こえなくなった。