嘘つきは恋のはじまり
だいちゃんが待合室をぐるりと見回してから、疑問の目を向けてくる。

「咲良、一人なの?」

「あ、うん。お父さんなら仕事にいったよ。待ってるとそわそわして落ち着かないから~って。逆に私は仕事してる方が落ち着かないからここにいるんだ。」

「ここでずっと待つの?」

「…うん。別にここで待ってなくてもいいの。いいんだけど、私は気になって何も手につかないから…。だからただここにいるっていう感じで。」

言いながら、何故だか途中から声が震えてしまった。
強い心で待っていたいのに。
母の手術が終わったら、お疲れ様って笑顔で声をかけたいのに。
今の私は、まるでそんなことできそうにないくらい弱々しい状態だ。
そんな弱い自分に嫌気がさす。

膝の上に置いていた手に、だいちゃんの手が重ねられる。
大きくてあったかい、男らしいのに優しい手。

それを見て、自分がいつの間にかうつむいていたことに気付いた。

「咲良。俺が一緒に待つよ。」

重ねられた手が、より一層強く握られる。
だいちゃんのあたたかさが伝わってきて、私の心をいとも簡単に緩ます。

さきほどまで時間が経つのがずいぶん長く感じられたのに、だいちゃんが来てからは時間を忘れるほどだった。
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