嘘つきは恋のはじまり
しばらく待合室にいたけれど、お昼時になればこんな時にもお腹はすくもので、緊張感のない自分の体内時計に思わず笑ってしまった。でもそれはきっと、だいちゃんが来てくれて安心したからに他ならない。

病院の最上階にはレストランがあり、食事制限のない患者さんも一般の人も使うことができる。大きなガラス貼りの展望窓からは街並みを見渡すことができ、暖かな光が差し込んでいる。

空いている席に案内され、だいちゃんはカツ丼を、私はパスタを注文した。
運ばれてきたパスタをフォークでくるくる巻いていると、だいちゃんがぼそりと言う。

「まさか咲良が会社の受付をしているとは思わなかったな。」

「私もだいちゃんがうちの会社と関係あるとは思わなかったよ。」

私が顔をあげてそう言うと、だいちゃんは柔らかく笑った。その笑顔がとても優しくて思わず胸がきゅんとしてしまって、また視線をパスタに戻す。自分の中のかすかな動揺を隠そうと、私は何事もないように話を続けた。

「だいちゃんはどんな仕事をしているの?」

「ん?俺はSEだよ。役に立つシステムを作ることが仕事。今は咲良の会社のシステム課から請け負った仕事をしてる。」

「へぇー!すごいね。」

SEなんて私には全く縁のない仕事だ。パソコンといえば仕事で使うだけ、それも検索や入力するだけの誰でもできるようなことしか私にはできない。
そう思って感嘆の声をあげたのに、だいちゃんは不思議そうな顔をする。

「何言ってるんだよ、咲良もすごいじゃん。大企業の受付なんて華がある。」

真剣にそう返されて、私は慌てて首をブンブンと振った。

「すごくないよ。私は派遣社員だもの。ずっと引っ込み思案が直らなくてなかなか就職が決まらなかったの。たまたま派遣に登録して、たまたま今の仕事を紹介してもらっただけだよ。」

書類選考は何社か通ったのに、面接でいつもダメだった私。でも働かなくちゃと必死で辿り着いたのが派遣社員だった。
唯一の得意科目の英語を勉強したくて英文科に進んだことが功を成してか、外国からの客人もよく来るという大企業の受付業務職を紹介された。
ただ、それだけだ。
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