俺の恋人曰く、幸せな家庭は優しさと思いやりでできている「上」

女性の軍人はもう一度椅子に座り、今度はジャック・グラスとは関係のないニュースを読むことにした。ジャック・グラスの逃亡を除けば、平和なニュースがあふれるとても愉快な新聞となっていただろう。

新聞を読み続ける女性の軍人の肩を同期が叩く。

「しっかり休んどけよ。午後からはまたあのキツイ訓練だしさ」

「ええ、そうね」

同期の言葉をさらりと流し、女性の軍人は新聞を読み続ける。そして、ある記事に目を止めた。

「リーバス…！」

女性の軍人の頰が赤く染まる。しかし、その輝きに満ちた目は記事を読むごとに険しくなっていった。

「クリスタル・モーガン……。リーバスの恋人……」

その時、「ロビン・ターナーはいるか？」と先輩が顔を出した。慌てて女性の軍人は立ち上がり、「はい！」と敬礼をする。

「上官がお呼びだ。早く行け」

「はい！」

大きな返事をし、軍人の女性は上官の部屋へと急ぐ。その顔にはもう甘い輝きも、苦い憂いもない。

上官の部屋を出た女性の軍人の顔が明るく染まっていたのを知っているのは、少数の人間だけだ。



ドリス国は今、混乱の真っ只中にある。

ジャック・グラスが脱獄したというニュースを、国民全てが知っているからだ。

地理的にも、ドリス国とギール国は近い方だ。ジャックが海を越えてやって来るのでは、とみんな怯えている。