俺の恋人曰く、幸せな家庭は優しさと思いやりでできている「上」
俺は緊張する手で、ゆっくりと帽子を取る。顔も酷い傷跡などを作った。

「……これは……」

警官が申し訳なさそうな顔をする。俺は声を変え、言った。

「大戦の時に兵として戦場に行った代償がこれです。まあ、命があるだけありがたいですよ」

探している人物は目の前にいるというのに、マヌケな警官は「失礼しました!」と丁寧に敬礼をして去って行った。ここで腹を抱えて大声で笑いたいのを必死に堪える。

「ラス国行きの船は、まもなく出航いたします!」

船員が大声で叫び、見送ってくれる人から離れて次々と人が乗船していく。俺も慌てずにゆっくりと一人旅を装った。

船というと、俺がまだ捕まっていなかった時、協力者に頼んで船に爆弾を仕掛けてもらったことがあった。まあ、死人は出ず俺の敗北だったが…。

あの敗北も、リーバス・ヴィンヘルムやクリスタル・モーガンのせいで味わったのだ。あの二人には当然の報いを受けてもらわなければ…!

「ルカーナ、体を冷やすといけないから…」

「あら、ありがとう」

俺の前に、新婚旅行に今から行くのであろう若い夫婦が現れる。俺の頭にセーラが浮かんだ。

脱獄してしばらくは、俺はセーラと隠れ家で生活をしていた。しかし、もう一緒にいる必要はない。

俺はセーラに睡眠薬入りの紅茶を飲ませ、荷物をまとめ、置き手紙を置いて、今に至る。
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