俺の恋人曰く、幸せな家庭は優しさと思いやりでできている「上」
明日の夜に、カフェを貸切にしてもらう約束をして、リリーと別れた。

「楽しみだね!」

そう笑うと、リーバスが「そうだな」と言いながら私の手を握る。

この時は、ずっとこの幸せが続くと信じて疑わなかった。



これは、昔の物語。リーバス・ヴィンヘルムの昔の物語ーーー……。

孤児院は、昼間はいつも喧騒に包まれている。元気な子供たちが多いからだ。喧嘩なども絶えない。

「テメェ、俺に向かってそんな口聞いていいと思ってんのか!」

一人の男子が相手の胸ぐらを掴む。掴まれた相手は怯えたりせず、男子を思い切り睨みつけた。

「殴るなら殴れよ!どうせ、そんな勇気もないくせに〜!!」

挑発するように笑う相手を見て、男子の顔が怒りで赤く染まっていく。

「テメェ!!ふざけんな!!」

男子が相手を殴ろうとする拳を、素早く誰かが止める。それは、先ほどから様子を見ていたリーバスだった。

「よせよ。殴ったらモリーさんに叱られるぞ!」

リーバスはこの時十五歳。もうすぐ誕生日を迎え、孤児院から卒業するのも間近だった。

「ああっ?安っぽい正義偉そうに振りかざしてんじゃねぇよ!!」

男子はそう言って、リーバスを突き飛ばす。リーバスは相手を真っ直ぐ見つめ、どうすべきか迷っているようだった。
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