サザンカ
出会い
春風が頬を撫でる。
桜が散って道端の草が揺れた。
「愛琴、おはよう」
「おはよ」
何か特別なことが起きるわけでもない。
いつもどうりの朝。
今、挨拶した子が親友なわけじゃないし、親友と言える子がいるわけじゃない。
自然と隣に並んで歩くこの子は、
“友達気取り”
自分で言うのもあれだけど、私は普通より顔は整ってると思ってる。だから、この子達は私のおこぼれを狙っているだけ。
私と居れば男が寄ってくる。
ただ、それだけ。
私が使えないと思ったら、あっさり離れていくんだろう。
だからといって、彼女達が完全に悪ではない。私だってそうやると思うし。自分を守るために大切なこと。
それに、彼女達が離れようが離れまいが私にはどうでもいい。この人にだけは嫌われたくないっていうのもない。
ただ、いま生きている、それだけが真実で
死ぬ時は、死ぬ
「それでねっ_____」
教室についても、“友達気取り”の子達は止まることなく話し続けている。
何がそんなに楽しいんだろう。
分からない。
でも、笑って隣に立って居れば火の粉が降りかかることもない。単純で、一番楽だった。
「昨日、アルクトスに会ったんだよ!」
その言葉に、ピクリと眉が動いた。
_____アルクトス
それは、この辺一帯を纏めてる不良グループ
4年前に突如現れて、1年でトップに登り詰めた、最強と言われるグループ。
今では、不良グループだなんて言えないほど、権力は大きくなり、人数も莫大な人数になっている。
「サクさんが好きだな」
「え、リツさんでしょ!」
「いやいや、リョウさんもいい!」
「えー!ユウさんでしょ!」
特に幹部の4人はイケメンだ、と有名でこの街の女子の話題はその4人で持ち切りだった。
そんな4人は、謎が多い。
知られているのは、顔と名前、そしてどこぞのお金持ちだっていうことだけ。
「やっぱカッコイイ!」
話に花を咲かせている彼女達とは、逆に私の気分は急降下する。あの人を思い出して胸が痛くなる。
痛くて、痛くて、苦しい……
むせ返るような血の匂いも
冷たくなっていく手も
全てが、脳裏に焼き付いていて離れない。
やっぱり、痛いよ…
「あ……こ!……愛琴っ!」
名前を呼ばれたことで我に返る。顔を出した黒い感情に蓋をするように笑顔を浮かべた。
「なに?どしたの?」
「もー、やっぱり聞いてない」
「ごめんごめん」
ちょっと話に入ればまた勝手に進んで行く。
私がここにいなくても、この話は進んでいく、彼女達は楽しく話をできる。
私はただのブランドでしかなくて、それ以外の何でもない。
窓から入り込む風が私を嘲笑っている、そんな気がして眉間に皺を寄せた。
嘲笑うくらいなら、殺してくれればいいのにな……