サザンカ
「リコ?」
表情のなくなった私の顔を不思議そうにのぞき込んだレナ。
近いんだけど…
「なに」
レナのおでこを押して距離を取りながら素っ気なく返す。プクッと頬を膨らましたレナはお酒を呷った。
あまりにも豪快な飲み方にくすっと笑みが零れた。
「………」
「なに?」
驚いたように目を見開いたレナは、私の顔をじーっと見て動かない。
「わ、笑った…」
失礼な……
横でケンさんがくすくすとわらっているのが見えてジッと睨めば「おっと失礼」何て言ってふざける。
面白くなくて、目の前にあったジンジャエールに口をつけた。
「いや、だって、リコは全然笑わないからさ」
「まぁ、確かにリコちゃんは笑わないね
俺だって、初めて見たのは会ってから結構経った時だったし?」
「笑うと、疲れます」
学校では嫌ってくらい笑っているんだ、ここでは笑わなくたっていいじゃんか。
笑うのは疲れるんだから。
「それに、笑っても何もメリットないし」
笑っても何も変わらないし、あの日をやり直すことなんて出来ないんだから。
視線を落とせばジンジャエールが視界に入る。私がジンジャエールを呑む理由。
お酒の飲めない彼が、少し背伸びしようと飲んでいたものだったから。
これを飲めば彼がまたここに戻ってきてくれるんじゃないか、なんてありえないことを夢見ているから。
馬鹿みたいに期待してる。
自分で壊した幸せなのに。
「「きゃぁぁっ!!」」
入口の方から、悲鳴のような歓声が聞こえた。
もう来たのか…
ため息をついた私はそっちを見もせずにまた、ジンジャエールを飲んだ。
いつもの事。
夜が深まった時間帯にこのクラブに顔を出す彼ら。
「やっば!今日もかっこいい」
私以外のクラブの人達の視線はすべて彼らに向けられる。
女の目には欲望が宿り、男の目には憧れが宿る。
この街での絶対的な存在。
アルクトスのお出ましだ。
「いやぁ、今日もすげぇなぁ」
目の前のケンさんは呑気にグラスを拭きながら笑っている。……それでいいのか店長。
隣のレナもケンさんと同じようなことを言って足を組んでお酒を飲んで笑っていた。
そういえば、ケンさんもレナもあのアルクトスと知り合いってことになるけど何者なんだろう。
実は、2人とも超お金持ちだったりするのかな。
そんな事を考えながら頬杖をついた。
アルクトスに近づいていく人達を見れば、みんな興奮したような顔だった。
私は、アルクトスに関わるつもりは無い。関わる資格は無い。
彼らの大切な人を私が奪ってしまったんだから。
「レナ」
ふと、心地よいテノールの声が聞こえた。
後ろに人がたっているからか、少し影になったケンさんがフッ、と笑った。
この声はきっと
「なんでこっち来たの?サク」
アルクトスの人だ……
ケンさんから視線を外して後ろを見ればアルクトスのサクさんが私を見つめて立っていた。
明るい茶髪の髪は緩くパーマがかかっていて怖いくらいに整った顔はまるで作り物のようだった。
にこりと微笑んだサクさんは、初めまして、と私に話しかけた。
あれ?レナに話しかけたんじゃないの?
不思議に思いながらも、初めまして、と返す。
残念ながら美形には見慣れてるもんであまり驚きはしない。
「なになに?」
後ろからユウさん、リョウさん、リツさんと続けて近づいてきた。
あっとゆう間に注目の的になってしまう。
あんまり目立ちたくないんだけどな…