フェイク×ラバー
彼女役の話を持ち出したとき、彼女は露骨に嫌そうな顔をした。
あれは自分と関わりたくないと思っている人間の表情だ。
それがはじめには、好都合以外の何物でもなかった。
昔から、人よりも優れているという自覚はある。
人並み以上の容姿、裕福な実家、多方面へのコネ──これらを狙って近づいて来る連中は、当然のように多い。
だから彼女役も、慎重に選ばなくてはならなかった。
一時的な彼女役。求めているのはそれだけ。“その先”なんてない。
適当に選んだ誰かが勘違いして、本気になられても困るだけ。
こんなこと言ったら自惚れだと言われてしまいそうだが、ありえない話でもない。
だから困っていたのだが、雀野 美雪は自分に全く興味がないようだった。お茶に誘ったときも、喜ぶ素振りは見せず、むしろ困ってるようだった。
カフェで向かい合っているときも、恥じらいの表情を浮かべることなく、常に周囲を気にしているだけ。
だから彼女役を頼むことに決めた。
彼女は自分にとっての“最善”だと思ったから。
もしダメだと思ったら、あーだこーだ理由をつけて、お茶だけで終わらせるつもりだったのだが。
「……それなりに可愛い子だったしな」
笑顔は一度も見れなかったが、素材は悪くない。磨けば光る。
そんな感じの子だった。
それにお人好しそうだったし、狼谷 はじめの彼女役を引き受けることになった、なんてことを吹聴するような子にも見えなかった。
これが“最善”の選択。
そう、狼谷 はじめは信じている。