フェイク×ラバー
王子様と庶民のお話。
結婚式への出席なんて、何年ぶりだろう?
多分、従姉妹の結婚式が最後だったような気がする。
あのときの自分は確か、高校に入ったばかり。父と兄はスーツ、母はこれ幸いとフォーマルドレスを新調していたが、高校生の自分は制服で出席した。
今になって痛感する。学生という肩書は、非常に便利だったのだ、と。
というのも、美雪は結婚式に着て行けるようなフォーマルドレスを持っていない。
友人の多くは未だ結婚とは無縁で、自分と同じく、社会人として日々忙しなく過ごしているのだろう。結婚式の招待状が届くことはない。
となれば、フォーマルドレスを購入する必要があるのだが、何を買えばいいのかわからない。
一応、ネットで事前に調べてみたのだが、結婚式にはいろいろなマナーがあるらしい。
花嫁さんと同じ白のドレスは避けなさい。
動物柄や皮製品もダメ。露出度の高いドレスも良くない。
全身黒もダメよ。
それから靴も気を付けないと。ぺたんこ靴は良くないわ。ヒールがないと。
ああ、なんてめんどうなんだろう。
パソコンを前に、ため息しか出てこない。
「買いに行かないとだよねぇ……」
フォーマルドレスを持っていないので出席できません!
と、狼谷 はじめに連絡してみようか?
いいや、無駄な抵抗だな。買って来いとストレートに言われることはないだろうが、それらしいことを遠回しに言われそうな気がする。
まあ、この年齢だし、一着くらいは持ってた方がいいだろうな、とは思う。
「買いに行くしかないか」
今日は土曜日。人混みを避けるのは難しいが、行くしかない。
美雪は立ち上がり、出かける準備を始める。
土日はいつも部屋に閉じこもっているから、出かけるのはなんだか久しぶりだ。
「電話? 誰から……う」
スマホがテーブルの上でぶるぶると震えたので、画面を覗き込む。
どうやら電話のようだ。相手は────狼谷 はじめ。
これは出ないといけない電話、のような気がする。
「も、もしもし?」
「こんにちは。今日は何か、予定があるかな?」
「特にはありませんけど……」
「それならよかった。じゃあ、一時間後に駅前でいいかな?」
「駅前?」
「支障あるかな?」
「い、いえ」
「じゃあ、一時間後に」
電話が切れると、美雪は首を傾げて考え込む。
何故、駅前に? また話があるとか?
「…………あの人の考えることはわかんない」