フェイク×ラバー

 何せ真逆のタイプだから。

「どうせ出かけなきゃと思ってたし」

 自分を納得させながら、寝室に置いてあるワードローブの中から、今から着る服を選ぶ。
 肌寒くなって来たとはいえ、まだコートを着るには早すぎる。

「う~ん……」

 コンビニやスーパーへ買い物に出るときは、こんなにも悩まない。悩んでしまうのは、これから会うのが狼谷 はじめだから。
 良い所を見せようなんて思ってない。
 ただ変な所は見せたくない。

 なので着て行く服に悩んでしまう。
 もともと、ファッションに対して情熱があるタイプではないので、流行を取り入れることもなく、年中、自分の好きなものを着ている。
 それは悪いことじゃないのだが、ファッションセンスがあるかどうかは別問題。

「無難に行くのが妥当だよね」

 結局、美雪は七分袖のワンピースを着ることに決めた。ワンピースは楽でいいから、ワードローブの中にはワンピースがたくさん詰まっている。
 その中にはいくつかお気に入りのものもあるのだが、今日はそれらとは別の、シンプルなワンピースにしておく。褒められることはないけれど、けなされることもない。

 それが一番良い。

「一時間後に駅前ってことは……そろそろ出ないとか」

 スマホで時間を確認して、財布や家の鍵やらをバッグに詰め込む。

「なんの用なんだろ……」

 そりゃ出かけるつもりでいたけど、自分以外の誰かがそこに加わると、話は変わってくる。
 特に狼谷 はじめの場合は。

 あの人と会社以外で会うことになるなんて、少し前までは考えられなかった。
 なんというか、自分は運が悪い。
 そうとしか思えない。

 美雪はため息をつきながらパンプスを履き、ちっともやる気が出ないまま、家を出た。


 ***


 午後二時──。
 休日ということもあって、駅前は賑わっていた。
 今から遊びに行くらしい学生や、恋人らしき男女、家族連れもいる。

 良く晴れているから、出かけるには絶好の日なのだろうが、やっぱり休日は部屋に閉じこもっていたかった。
 美雪は青空を見上げ、眉をひそめる。

「……どこにいるんだろ」

 帰りたい気持ちを押し込み、美雪は呼び出した張本人を探す。人は多いが、あの人は目立つ。
 すぐに見つかるだろう。
 
 と思ったのだが、それらしい人物が見当たらない。

「駅前って、ここだよね?」

 もしかして間違えた? いや、そんなことはないはず。

「雀野さん」

 きょろきょろ周囲を見回していた美雪の耳に届いたのは、クラクションの鳴る音。
 それから、自分を呼ぶ男性の声。


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