フェイク×ラバー

Kの葛藤


 昔から、自覚があった。
 自分は母親に似ているのだという、自覚。容姿の話じゃない。中身の話。

 だから雀野 美雪の経歴を知ったとき、母親がどういう考えに至り、そしてどんな話をするのか。
 狼谷 はじめは容易に想像がついた。

 だからこそ、逃げ出したくなった。
 こんなつもりじゃなかったから。

「あの子なら、おばあ様も気に入るでしょうね」

 美雪がお手洗いで席を外した瞬間、母親がさも当然のように言ってきた。
 やはり言ったか。言うだろうとはわかっていたが。

「どうせその場しのぎで連れてきた子なんでしょうけど」

「え?!」

 驚いたのは、父親だった。

「どういうことかな? もしかして……付き合ってないの?」

「当たり前でしょう。この子のタイプじゃないもの、あの子。──あんたが私に、女性ものの店を聞いてきたときは期待したけど」

 母親は良く知っている。自身の息子について。
 だから苦手意識が拭えない。

「ねえ、はじめ」

 母親が真面目な声で、自分の名前を呼ぶ。
 ああ、嫌だ。
 絶対に、不快なことを言われる。

「あんたは一途だから、今でも忘れられないのかもしれないけど、そろそろ区切りを付けなさい。あの子──美雪さん、いいじゃない。結婚しろとは言わないけど、ちゃんとしたお付き合いを始めてみたらどう?」

 母親の提案は、おおむね予想通り。
 だから返す言葉も、すらすらと出てくる。

「彼女には無理を言って、今日ついてきてもらったんだ。向こうは俺に対して好意を抱いてないし、その可能性は低いよ」

 こういうとき、父や兄なら言葉に詰まる。
 だから自分には、可愛げが足りないのだ。

「じゃあ、おばあ様が用意した縁談を受けるの?」

「なんでおばあ様が関係するんだ?」

「あんた、来年で三十でしょ? そろそろはじめにも、っておばあ様が言ってたわよ」

 それはなんとも、余計なお世話。
 はじめは眉をひそめ、水の入ったグラスに手を伸ばす。

「覚悟することね。怜のときでさえ、おばあ様はあれだけ反対したのよ? あんたのときは、更に大変でしょうね」

 まるで他人事のように話す母親に、はじめは苛立つ。

 だが忘れていた。
 何故、今日のめでたい場に、祖母の姿がなかったのかを。
 祖母はずっと、兄と香穂子の結婚を反対していた。理由は簡単。香穂子が母子家庭で、良家の娘じゃないから。
 祖母は古い考えの人だ。家柄だとか、格式だとか、そんなことばかりを気にする。

 だからはじめは、祖母が少しだけ嫌いだった。
 彼女を何度も泣かせたから。

「おばあ様が選び抜いたお嬢さん方は、絶対にあんたの好みじゃない。そんな子たちの中から妻を選ぶくらいなら、自分で選びたいでしょ? 違う?」

 この母親は、ほんとに自分の息子をよくわかっている。


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