フェイク×ラバー

「明日の十四時、予約したから」

「え?」

 何を言ってるの、この人。
 美雪が首を傾げ、スマホの画面を見れば、そこには「予約が完了しました」、の文字。

「え? えっ? なんで? どうして?」

「予約したから」

「なんで勝手に……しかも二席?」

 キャンセルしなきゃ。
 まだ兄に確認してないの。

「それ、俺が一緒に行くよ」

 スマホを操作しようとすれば、思いもしなかったはじめの一言に、美雪の動きがぴたりと止まる。

「一緒に、って……なんで?」

 意味がわからない。
 何がどうなって、一緒に映画を観ることになるの?

「お礼だよ」

「お礼?」

「両親との食事。あれは予定外だったから。なのに君は、付き合ってくれた。そのお礼」

「そんなこと」

 気にするほどのことじゃない。
 あれははじめの言った通り、予定外だったのだ。やむを得ず、仕方なし。
 だからお礼なんて必要ないと主張したのだが、はじめは譲らなかった。

「じゃあ一人で観に行くわけだ」

「そ、それは……」

 痛い所を突かれた。
 それを言われてしまったら、美雪はもう、何も言えない。

「決まりだね」

「…………」

 美雪は何も言えず、スマホを握りしめることしかできない。
 はじめが何を考えているのか、わからないのだ。

 でも一人で映画を観には行けないんだから、了承するしかない。

「ついでにお昼、一緒にどう?」

「え?!」

 驚きの声を上げれば、はじめはいたずらっ子のように笑う。

「冗談だよ。じゃあ、明日」

 ひらひらと手を振るはじめを、美雪は何も言わずに見送るだけ。

「……なんで」

 この展開は、予想外すぎる。
 とっくに繋がりは切れてしまったと思い込んでいた美雪にとって、はじめの行動は理解できない。
 ただわかっていることはひとつだけ。

 明日、自分は狼谷 はじめと映画を観に行く、ということ。


 ***


 仕事を終え、自宅マンションへと帰ってきた美雪は、夕飯とお風呂を手早く済ませ、猛烈に悩んでいた。

「何を着て行こう……」

 明日着て行く服が、決まらない。ワードローブを開けて、お気に入りのワンピースなどを取り出してみるが、どうにもしっくりこないのだ。

 ただ映画を観に行くだけ。何を気にする必要もない。

 そう思ってた。帰って来るまでは。

 けど帰って来て、いざ明日着て行く服を決めよう! となった瞬間、困ってしまった。


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