フェイク×ラバー
美雪がゲーム好きになったのは、三歳年上の兄・歩生(あゆむ)の影響が大きい。
兄の歩生は、幼い頃から非常に多趣味だった。ピアノに英会話、水泳に野球にサッカー、興味のあるものすべてに手を出し、両親もそれを止めなかった。
その中のひとつにゲームがあったのだが、高校受験を控えていた年、勉強に集中したいから、という理由で自分が所有するゲームのすべてを、妹である美雪に譲渡した。
それがゲーム好きになったきっかけで、社会人になった今でも、相変わらずゲーム好き。
むしろ念願の一人暮らしが重なって、更に拍車がかかったように思う。実家にいた頃は、両親に「ゲームもほどほどにしなさい」、と言われていたが、今は一人暮らし。
家賃や光熱費やら、責任は増えたけれど、その分、自由も増えた。
ただ悲しいかな。
平日は仕事があるので、ゲームに触れられる時間は想像以上に少ない。
だから休日のすべてはゲームに費やしたい。
「そろそろ積みゲーを消化しないとだけど……、お風呂先に入った方がいいよね」
ログインだけ済ませて、スマホを充電しておく。仕事中はほとんどスマホを触らないけど、帰ってきたら癖で充電してしまう。
まだ七十パーセントも残ってるのに。
どうしてだろ?
でもそういう人、結構いると思うんだよね。
「録画しといたのも見なきゃだよね。DVDの容量、いっぱいかもしんないし」
お風呂の準備を進めながら、勝手に出てくる独り言。
昔から独り言は多い方だと自覚してはいたが、一人暮らしを始めると、なおさら独り言が増えた。
最近はもう、テレビにも話しかけてしまう。
「さてと、お風呂に入りますか」
月曜から金曜、自分はよく頑張った。
お湯をたっぷり張ったバスタブでゆっくりと疲れを洗い流したら、待ちに待った休日を満喫するだけ。
***
一人暮らしを始めたのはいつだったか。
多分、大学三年の春か夏だったと記憶している。
と言っても、引っ越したのは母親が所有するマンションの一室。親の庇護のもとにいるのと大差ない。
だから大学卒業後、別のマンションに引っ越した。
当然ながら質は落ちるが、いつまでも親のすねをかじるような真似はしたくない。
それに広すぎると、持て余す。
今の1LDKが、自分にはちょうどいい。
「詰め替えが────ないな」
バスルーム、備え付けの収納棚に洗剤の詰め替えがないことに気づいたはじめは、仕方なく今夜の洗濯を諦めることにした。
別に今すぐ洗濯したかったわけじゃないので、詰め替えがなくても困りはしないのだが、やることがなくなってしまった。
はじめはリビングに戻り、部屋の中を見回す。
晩ご飯は食べ終わり、食器も洗ったし、ごみ捨ても完了。掃除は暇を見てはこまめに行っているので、今急いでする必要はないし、そもそも午後九時過ぎにすることじゃない。
となればすることはひとつしかないわけで。
「────仕事するか」