次期家元は無垢な許嫁が愛しくてたまらない
第一章
茉莉花が伊蕗に初めて出会ったのは、香苗が言った通り、四年前の二月。
鳳花流の家元である祖父の付き添いで、伊蕗は茉莉花の家へ現れた。伊蕗の祖父と一緒に、旧友であった人間国宝の茉莉花の祖父を訪ねてやってきたのだ。
初めて伊蕗に会ったときのことは、鮮明に覚えている。
キャメル色の暖かそうなカシミヤのロングコートを着た伊蕗は、火の入っていない大きな半円形の窯の前にたたずんでいた。
背が高く、広い肩幅の持ち主に、茉莉花はしばらく見入ってしまう。後ろ姿なのに、自信たっぷりのオーラをまとった人だった。
そのときは、その男性が誰なのか、茉莉花にはわからなかった。
(誰なんだろう……? でも、窯場にいるってことは、お祖父ちゃんの了承を得ているよね……?)
男性が立っているのは、ちゃんと屋根のあるところだが、雪が舞う外は相当寒い。茉莉花のほうも、頭にも顔にも黒のコートにも雪が当たって寒い。しかし、男性は考え事をしているのか、声をかけたら邪魔をしてしまいそうな雰囲気で、声を出せなかった。
「あれ? 姉ちゃん!」
窯の横からひょこっと現れたのは、茉莉花の二歳下の弟・智也(ともや)だった。
智也の声で、茉莉花が声をかけられなかった男性が振り返った。そのときに受けた衝撃は忘れられない。
男性と目が合った瞬間、雷に打たれたように心臓がドクンと跳ね、頭からつま先まで震えが走った。
ひと目見たら絶対に記憶に残る人である。整った顔立ちや、大人の雰囲気……その都会的な洗練された姿は、茉莉花の心を激しく揺さぶった。
伊蕗のほうも、突然現れた女子高生に、涼しげな目を大きくさせている。
「伊蕗さん、姉ちゃんの茉莉花です。姉ちゃん、何をぼーっとしてるんだよ。ま、無理もないけどな。鳳花流の次期家元の宝来伊蕗さんだよ」
いつも人見知りをする智也が、伊蕗の隣で尊敬の念を抱いているような表情だ。
茉莉花は我に返って、ペコッと頭を下げる。日本の伝統文化である華道で有名な鳳花流の次期家元が目の前におり、恐れ多い気持ちだった。
鳳花流の家元である祖父の付き添いで、伊蕗は茉莉花の家へ現れた。伊蕗の祖父と一緒に、旧友であった人間国宝の茉莉花の祖父を訪ねてやってきたのだ。
初めて伊蕗に会ったときのことは、鮮明に覚えている。
キャメル色の暖かそうなカシミヤのロングコートを着た伊蕗は、火の入っていない大きな半円形の窯の前にたたずんでいた。
背が高く、広い肩幅の持ち主に、茉莉花はしばらく見入ってしまう。後ろ姿なのに、自信たっぷりのオーラをまとった人だった。
そのときは、その男性が誰なのか、茉莉花にはわからなかった。
(誰なんだろう……? でも、窯場にいるってことは、お祖父ちゃんの了承を得ているよね……?)
男性が立っているのは、ちゃんと屋根のあるところだが、雪が舞う外は相当寒い。茉莉花のほうも、頭にも顔にも黒のコートにも雪が当たって寒い。しかし、男性は考え事をしているのか、声をかけたら邪魔をしてしまいそうな雰囲気で、声を出せなかった。
「あれ? 姉ちゃん!」
窯の横からひょこっと現れたのは、茉莉花の二歳下の弟・智也(ともや)だった。
智也の声で、茉莉花が声をかけられなかった男性が振り返った。そのときに受けた衝撃は忘れられない。
男性と目が合った瞬間、雷に打たれたように心臓がドクンと跳ね、頭からつま先まで震えが走った。
ひと目見たら絶対に記憶に残る人である。整った顔立ちや、大人の雰囲気……その都会的な洗練された姿は、茉莉花の心を激しく揺さぶった。
伊蕗のほうも、突然現れた女子高生に、涼しげな目を大きくさせている。
「伊蕗さん、姉ちゃんの茉莉花です。姉ちゃん、何をぼーっとしてるんだよ。ま、無理もないけどな。鳳花流の次期家元の宝来伊蕗さんだよ」
いつも人見知りをする智也が、伊蕗の隣で尊敬の念を抱いているような表情だ。
茉莉花は我に返って、ペコッと頭を下げる。日本の伝統文化である華道で有名な鳳花流の次期家元が目の前におり、恐れ多い気持ちだった。