硝子の恋
授業も終わり、私はいつも通り生徒会室には行かず、何も考えずに美術室に足を運んだ。

美術室では、1年2年混じってデッサンをしていた。

けれど、ふと、窓側に座っていた誠君と目があった。

「よーし、今日のデッサン終わり。各自自分の課題をやること」

部長らしくてきぱきと仕切る誠君に感心しながらも、部員達が用意していた油絵に目がいった。

「山下、来てくれたんだ」

「うん、約束だからね」

周りを見回せば、部員達が熱心に油絵の具をキャンバスに塗り込んでいる。

「あ……あの絵」

青と緑がベースになった何とも言えない不思議な絵だった。

「キレイだろ?」

「うん」

「俺が書いたんだ」

自慢げに誠君が言ったけれど、本当にそれは不思議な絵だった。

緑と青の洞窟の天上に輝く月。

「山下はこの絵が好き?」

「うん、青と緑がとてもキレイだし」

「青とか緑とか好きな色?」

「うん、好き。でも」

「でも?」

「赤は嫌い」

誠君は目を丸くして私を見た。

「どうして?赤っていいイメージあるじゃん。紅白とかさ」

「だって赤ってさ、キレイじゃないもん」

「キレイだよ」

「私にとっては一番汚い色なんだよ。これは感性だからしょうがないよ」

誠君はちょっと意外そうな顔をして、夕日を書いていた部員の方を見た。

「赤は太陽の色、大地の色なんだよ。そして俺たちの血の色だ」

(だからじゃん)

血の色だから嫌だ。汚れてる。そんな事は言えるわけもなく、私は黙ってそれを見ていた。

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