硝子の恋
生徒会室に入ったとたん、優花ちゃんが私に泣きついてきた。

「うわーん、きょーちゃんごめんねー」

訳も分からずただ泣きついてきた優花ちゃんを受け止める私。

「きょーちゃんから借りた本、誰かにいたずらされて泥の中に落ちてたの」

えぐえぐ泣く優花ちゃんの背中をぽんぽんと叩く。

犯人はどうせ藤井さん達だろう。優花ちゃんに本を貸すところを見られていたし、

それにそんなことするの藤井さん達しかいないし。

「きょーちゃんごめんね。弁償するから」

「いいよ、もう読んだ本だったし、優花ちゃんのせいじゃないし」

実際、本ぐらい何ともないし?

それに優花ちゃんが私のせいでいじめられたワケじゃないし?

ならいいじゃん。

「じゃあ、気分を変えてお仕事、お仕事ー!

たしか、今度の体育祭のパンフ出来てなかったよね。私打つの早いから、私がやっちゃってもいい?」

「いいよ、てゆーか、きょーちゃんにやらせる気まんまんだった」

由衣ちゃんが笑いながら先生の書いた原稿用紙を私に渡す。

パソコン打つのが得意な私にはこんな仕事、わけありませーん。頑張っちゃうよ!

パソコンの前に座り、パチパチと原稿を打っていく。

あくまでもパンフだからデザインも考えて、簡単なイラストも描いて……

「やっぱり山下、絵の才能あるよ」

はて?

言い出したのはさっきまで一緒に歩いていた誠君。

「こんな落書きで何がわかるの?」

「色々。配置センスとか、空間の作り方とか……ね」

『ね』って何だ。『ね』って。

「言っておくけど、私選教科、択美術じゃなくて書道だよ?

それに中学では美術2だったんだよ」

「それは先生が見る目がなかったんだよ」

……大学を出て美術教師になった人の目と自分を比べるな。

そう言葉に出かかったけど、それをぐっと押しとどめた。

「美術部はいりなよ山下」

「きょーちゃんすごーい!部長自らのスカウトだ!」

周りがにわかに騒ぎ出す。

「私、絵なんて興味ないし。ほら、みんなも仕事!仕事!!」

私が何もなかったかのようにパソコンの前に座り直すと、みんなもからかうのに飽きたのか、自分の仕事に戻った。
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