硝子の恋
あらかたパソコンにデーターを打ち込むと私は大きく伸びをした。

「うーん、今日の仕事終わり!」

「お、きょーちゃんお疲れー」

プリントをガーガーとコピーしていた由美ちゃんがお疲れコールをくれる。

「じゃあ私バイトあるから帰るね」

「お疲れー」

「お先ー」

私はカバンを持ち、生徒会室を出た。

一人で帰るのはちょっとした恐怖だった。

何をされるか分からない。それが本音。

そこで反対側の窓に映る藤井さん達を見つけた。

何がおかしいのか笑いながら廊下を歩いている。

(……また私の事かな)

そう思うと気が重い。

その思いはビンゴだった。

自分の靴箱をのぞき込むと、なにやら真っ黒に染まっていた。

墨汁だ。

私の靴箱に墨汁が流れている。

小さい靴箱の中に一面の墨汁。

もちろん靴だって無事じゃない。

茶色の革靴だった私の靴は、見事に真っ黒になっていて、足を入れる部分はたぷたぷと墨汁がたまっていた。

……気に入ってたのになぁ……しかたない。今日は運動靴で帰ろう。

確か教室にあったはずだ。

私は教室を目指す。

教室にたどり着き運動靴を手に取った。

どうやらこれは墨汁の被害は受けていないらしい。

再び玄関に戻って運動靴を履くと、チクリと小さな痛みが走った。

ガビョウだ。

確認しなかった私も悪いけど、そこまで用意周到だとは思わなかった。

私は運動靴を逆さまにしてガビョウをばらばらと落とした。

……結構な量が入ってる。

全部ガビョウを落とすと、改めて運動靴を履いた。そして墨汁がしたたる革靴をビニール袋に入れる。

新しいの買わなきゃ駄目かなぁ?

ぼんやりと思う。

本当は、こういうときは泣いたりするんだろう。

でも、もう慣れちゃったんだ。

悲しくない。悔しくもない。

やっぱり私は変だ。
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