硝子の恋
家に帰ると、外灯がともっていた。

それが私を迎えるためについたものだってことは分かっていた。

「ここは安全だ」

そう言われている気がした。

「ただいまー」

「あら鏡子おかえり」

いつもと変わらないお母さんの声。

「そういえば」

運動靴のひもをゆるめながらお母さんの声を聞く。

「この前の先生ね、バイトのシフトが知りたいって」

この言葉におもわず私は目をむいた。

「え?ちょっと!まさか教えたんじゃないよね!!?」

「教えちゃダメだったの?」

私のいきおいにお母さんは戸惑ったように私を見る。

「ダメにきまってんじゃん!あれ、先生なんかじゃないよ!!

私につきまとう変なおじいさんなんだよ」

「ストーカー?」

「そうだよ!」

それだけを言うとお母さんは笑い出した。

「鏡子、ストーカーってね美人が狙われるものよ?」

「それでも!私にしつこくつきまとってるの!!」

らちがあかない。私は逃げるように二階の自室にこもった。そして鍵をかける。

そのときとっさに見えたのは緑と青のグラデーションが綺麗な、カッターナイフだった。

ふらふらとそれを手に取り、刃を出す。そしてセーラーの腕をまくり、いくつも傷が残っている左ウデに刃を立てた。

カッターよりカミソリの方が痛くないし切れるよー、とネット友達は言っていたけれど、私は死にたくて切るワケじゃない。

痛みと、血のにおいがほしいんだ。

ぷつ……

カッターの刃が私のウデを紙を破くように切ってゆく。

「……痛」

血が玉になって傷口から溢れていく。

ソレをこすって、腕を赤く染める。そしてそのにおいを嗅いだ。

さびた鉄のようなにおい。

ぽたりと血が机の上に落ちた。

そこにはクラス新聞が置いてあったけれど、落ちた血がじわりじわりとその新聞に広まる。

血が止まるとまたウデにカッターの刃を立てる。

ソレのくりかえし。

ねぇ?

誰か、助けてよ。
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