硝子の恋
誠君の絵はパワーアップされていた。なんつーか、白い羽が宙を舞い、さらにその絵を幻想的にさせていた。

「これってモデルとかあんの?」

「え?ないよ。ただ、こんなところがあってもいいかなーと思って描いたんだ」

ほうほう。誠君は意外とロマンチストらしい。

「これからみんなでスケッチをするけど、山下はヒマだろ?準備室に色々あるから見て回れよ」

「うん、そうする」

誠君が美術準備室の鍵を開けてくれた。

中にはいると、今まで先輩達が描いただろう油絵がびっしりと置いてあった。それだけじゃない。美術に関わる雑誌や本、参考書も狭い所にびっちりと敷き詰められている。

私はその本の一冊を取ってぱらぱらと眺めた……うん、やっぱり私には芸術は分からない。

この本に載ってある絵はどれも上手いと思うし、キレイだと思うもん。

スケールの違う絵をぱらぱらと見て、ふと、手を止めた。

女の人が国旗をかかげ、おおぜいの人がその女の人についていく絵だ。

片手に国旗、片手に銃。戦っているその女の人の顔はりりしく、周りがついて行こうと思わせる何かを持っていた。

そしてその女の人について行く人たちは武器を持っていた。

なぜか、その女の人がうらやましかった。堂々としていて、人を動かす力があって……

私が欲しい物ってこういうのなんだろうなぁとふと思った。そんな力があればいじめられることはないし、ウデだって切ったりしない。

「山下、何見てんの?」

そんなときひょいっと誠君が現れた。

「あ、ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』だ」

「知ってんの?」

「そりゃ、美術部部長ですから。気になる?
 
 これってルーブル美術館にあるんだよ。いつか本物みたいよな」

「ルーブル美術館って、ミロのビーナスとかモナリザとかあるところ?」

「正解、よく知ってるな」

それくらいわかりますよーだ。

「で、何しに来たの?」

「あそうだ、重要なこと。ここ、もう閉めるから」

誠君の右手には美術準備室の鍵が握られていた。

「じゃあこれで帰るね」

「待てよ、二人で帰ろう」

二人で帰っても話題なんてないくせにと思いながら私は「いいよ」とだけ言ってカバンを持った


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