硝子の恋
私がフロアに入った時は、すでにあのおじいさんが待ちかまえていた。

カウンターで、にまにまと私を見る。

「大丈夫?顔色わるいよ?」

矢野さんが心配してくれるけど、迷惑をかけちゃいけないし……

「大丈夫です。今日体育祭だったので少し疲れちゃっただけですから」

「ならいいけど……」

心配そうな矢野さんをなんとかいいわけを使い、帰ってもらった。

だって、これ以上迷惑かけれないじゃん?

「おーい、奥で何をしているんだ。アメリカンおかわり!」

おじいさんが叫ぶ。

「はーい、今行きます!

 じゃあ矢野さん、お疲れ様です」

「わかった……でも無理はしないでね」

矢野さんはエプロンを外し、ロッカー室に入っていった。

「鏡子ちゃん、久しぶりだね」

いつもと同じにまにまと笑う顔が気持ち悪い。

「最近、電話にも出てくれないしね~」

それはお母さんに頼み込んで説得して、今度このおじいさんからの電話が来たら切って欲しいって言ったからだ。

「おじさん、お母さんに誤解されちゃったかなぁ~。

 おじさんはただ鏡子ちゃんが可愛いだけなのにねぇ」

気持ち悪い。

ホントにそう思う。

でも一応お客さんなんだし、ここでキレるわけにはいかない。

アメリカンがサーバーに完全に落ちた。ソレを確認すると、カウンターに行き、あいているカップにコーヒーを入れようとした。

けれど、

その手をおじいさんに捕まれた。

「お客様、放してください」

私は言うけれど、おじいさんは放してくれない。

今にも落ちそうになるコーヒー……

「僕ねぇ、鏡子ちゃんにぴったりの洋服見つけたんだ~

 きっと似合うよ。今度の日曜日、バイトお休みでしょ?

 一緒に買いに行こうよ?」

「おやめください」

いくら私が言おうとも、おじいさんは手を放してくれなかった。

おじいさんのぎとぎととした目が私を見る。




「嫌がってるでしょう?放してあげたらどうですか?」

その時どこからか男の人の声が聞こえた。
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