硝子の恋
それから私と政さんは沢山話をした。

主に弟の誠君の事。田舎に行って田んぼに落ちたとか、人が良すぎて詐欺にあわないか心配だとかそんな感じで。

話しているうちにあっという間に閉店の8時の時間になった。

「じゃあ、おあいそね。それと……」

「はい?」

「良ければ駅まで一緒に帰らないかい?」

「え?」

「いや、今日知ったばかりの人間と一緒というのは不安だろうけれど、あのジジイが君を待っていないとも限らないし」

それだけを聞いて私はうーんとうなった。

だって、いくら友達のお兄さんでも今日知り合った人だよ?

でも、考えているうちに、あのおじいさんのねっとりとした怖さがよみがえってきた。

「……閉店準備ありますんで、待っていてくれませんか?」

「分かった。じゃあ、外のベンチで待ってるよ」

政さんはそう言ってくれた。私は急いで日報を書き、売上金をまとめ、ホコリ防止の布をかぶせて政さんの待つベンチに行った。

「10分。なんだ意外と早いじゃないか」

「政さんが待ってると思って急いで終わらせたんですよ」

政さんはそんな私にくすくすと笑い、すくっとベンチから立ち上がった。

「じゃあ行こうか」

政さんの話は面白かった。

大学がいかに遊び場に適しているかとか、弟とのスキンシップはプロレスにありとか、そんなばかげた話だったけれど、それでも十分、緊張していたココロはほぐれた。

「それでさー、そのとき俺は言ったわけよ……って、山下さん、今日はこっちの道ね」

「でも、それなら遠回りになっちゃいますよ?」

「いーの、いーの。たまには別の道を歩きましょ」

私の返事を聞かず、政さんは人通りのにぎやかな道を歩いていった。

そんなことを何度か繰り返し、気がつけばいつもより15分ぐらい遅く駅にたどり着いた。

「なんで遠回りしたんですか?」

「暗闇の中、男女二人ってのはこわいっしょ?それにジジイが襲ってきても大勢いる場所だったら助けが呼べる。じゃあ俺、スーパーに戻るから」

「え?電車乗らないんですか?」

「俺バイクなの。で、バイク、スーパーに置いて来ちゃったからさ」

そこまで考えてそんな道を選んでくれたんだ。
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