硝子の恋
今日もまたバイトにおじいさんが来てる。

でもさすがに前回のでこりたのか、カウンター席でただ私をにやにやと見ているだけだった。

正直、その目だけでも気持ち悪。

でも、お客さんだもんね。ガマン、ガマン。

「そう言えば、鏡子ちゃん、昨日は何でお休みしたのあなぁ?」

おじいさんが口を開いた。

そうだ。本当なら昨日はバイトの日だったんだ。

けれど、事情をバイトのみんなに説明して店長に買えてもらったんだった。

「シフト変わったんで」

それだけを言うと、テーブルのお客さんが私を呼んだ。

「今行きますので」

それだけを言うと、カウンターから出てお客さんに注文を取りに行く。

他にお客さんがいると、おじいさんは私に手を出せないみたいで、ただにやにやと私の方を見ているだけだった。

それでも、おかわり自由のアメリカンを何杯も注文して、8時までねばるのはいつも通りだった。

タイムカードの機械が8時を知らせる。

「もうしわけございません。お客さま、閉店時間です」

おじいさんに言うと、おじいさんは目だけはにやにやと笑いながら「そうかー、もうそんな時間かー」と言ってきた。

「鏡子ちゃんを見ているとすぐに時間がくるね」

……気持ち悪。

「ありがとうございました。またどうぞ」

ココロにも思っていない事を言う。それがマニュアルだったから。

「ありがとう、じゃあまた来るね」

そう言っておじいさんは去っていった。

夜の閉めをやって、私はふーと息を吐いた。

今日はもう、早く帰りたかった。

左ウデがじくじくと痛んだ。

アムカしたい。

最近はさっぱりアムカなんてしていなかったのに、今日の事がそうとうキているみたいだ。

……強いフリだったのかな?

……強くなりたいと思ってただけなのかな?
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