硝子の恋
移動教室。

私は教科書や辞典なんかは全部カバンにつっこんで、カバンを持って移動する。

ソレを見た古文の担任が「お前は家出でもする気か」と言って笑ったこともある。

でも、こうしていないと、何代目か分からない教科書がどうなるかが分からないし。

今日も、移動教室から帰ってきた後、カバンから教科書を出し、机に入れようとしら小さな痛みが走った。

机をのぞき込むと、ガビョウがいっぱい詰まっている。

……運動靴の次は机ですか。

その発想の貧しさに目眩がした。

今日の「くさい」だって、前に藤井さん達が言ってたし?

結局、この人たちはそれくらいの脳みそしかないんだ。

そう考えると、なぜか少し同情できた。

私性格悪!

今私、精神的に、相手を自分より低い位置に置こうとした。

こんな事で自分の腹黒さをしるとは思わなかった。

人間、器は大きい方がいいよ。

正直自分の器の小ささを知ってショックだった。

でも、そうでもしなきゃやっていけないのも事実だし。




かったるい授業も終わり、みんながバラバラに帰っていく。

私は、誠君との約束通り、美術室に足をはこんだ。

「山下!待ってたんだぞ!!」

そう言って誠君が私のウデをひっぱった。

「な?キレイだろ?」

「……それより、ウデ痛いんですけど」

私が言うと、誠君は慌てて私のウデを放した。

「ゴメン、ちょっと興奮してて……」

誠君が絵画を指さした。

そこには緑と青のコントラストが綺麗な洞窟の絵があった。

天上は空いていて月明かりが見え、小さい天使達が羽を飛ばしながら踊っている。

「……キレイ」

「だろ?これ、乾いたら山下にやるよ」

「え?」

「気に入ってくれてるんだろ?」

「そうだけど……でも、いいの?簡単に人にあげちゃって……」

「俺は山下にもらってほしい」

誠君の目はまっすぐで、とても冗談を言っているようには思えなかった。

「分かった。ありがと」

ホントにもらっていいのか悩んだけれど、うれしかったし、この絵を貰うことになった。

もらったら、大事にしよう。部屋に飾ってもいいかな?
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