硝子の恋
「きょうちゃーん、帰るよー」

生徒会仲間の由衣ちゃんが私に声をかけた。

私はもくもくとパソコンで書類を作っていた。

でも、時間はすでに帰る時間だ。

「5分待って。用意しちゃうから」

そう言って私は、パソコンのデーターを保存してから電源を切った。

そしてカバンにノートやペンケースを詰め込んで、慌てて由衣ちゃんの所まで走る。

「おそいよー」

由衣ちゃんは今日もかわいい。

由衣ちゃんだけじゃない。由衣ちゃんの周りには生徒会2年の女子達が集まっていた。

この子達も私をいじめたりはしない。

「帰りにさー、セコマよってかない?チューカマン食べたい」

「8月ってまだ肉まんあんまんやってたっけ?」

そんな些細な事を言いながら駅まで歩く。

それが今の私には幸せだった。

1年の頃にはみんなから無視され、いじめられていたから、こんな些細な事が本当にしあわせだった。

「きょうちゃんは?」

「私はじゃあチョコでも買って帰ろうかな?」

「じゃあセコマよってこ!決定!!」

生徒会2年女子メンバーで一番元気のいい由美ちゃんが笑いながら話す。

セコマは学校と駅の途中にある。

入るといつも有線の音楽番組が流れていた。

「あるじゃんチューカマン!」

由美ちゃんがレジ前の中華まんの機械を指さして笑う。

「きょうちゃん、チョコマンってのもあるよ?」

「わたしチョコマンは苦手なんだ」

「そうなんだー、へー、チョコは好きなのに?」

「うん。チョコはぱりぱり食べるのが好きなの」

「そっかー」

それだけ言うと、由美ちゃんは私に興味がそれたのか、中華まんの機械とにらめっこしていた。

どうやら何にするか迷っている模様。

それがかわいくて、わたしは笑みをこらえた。

「きょーちゃんは決まった?」

「うん、私はこれ……」

「なんかこの店の中臭くね?」

声が聞こえた方を振り返ると、そこに立っていたのは同じクラスの藤井ゆかりだった。

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