硝子の恋
「きょーちゃん、いこ」

由衣ちゃんが顔をしかめ、ゆかりさんの横を通り過ぎた。

それに習って私も買おうと思っていたチョコを置いて、通り過ぎようとした。

藤井さんがすれ違いざまに言う。

「くさいんだよ」

本当に私はくさいんだろうか?

自分のにおいは気づかないって言うから、私が気づかないだけ?

由衣ちゃん達は「そんな事ないよ~」って言ってくれているけれど、それは友達だから遠慮しているのかも。

一度思った事は中々取り消すことができない。

毎日お風呂入ってるのに臭いのかな?8&4も使っているのにまだ汗のにおいとかしてるのかな?

頭の中がぐるぐるしてる。

「きょーちゃん?」

由衣ちゃんに声をかけられてはっと気がついた。

「てゆーか、まだいじめられていたんだね。どうでもいいけど、私巻き込まないでね」

聖子ちゃんが冷たく言った。

誰だってそうだ。巻き込まれたくないに決まってる。

「大丈夫だよ。藤井さんのターゲットは私一人だから」

本当は慰めの言葉が欲しかったけど、そんなのは贅沢だ。

とくに現実主義の聖子ちゃんは自分の事を中心に考えてる。

「あー!早く駅行ってチューカマン食べよ!冷めちゃうよ」

由美ちゃんがセコマの袋をぶんぶん振り回しながら文句を言う。

それで空気が和らいだ。

「そうだね。早く駅いこ!」

「そう言えば2年は中だるみの時期なんだってね」

「ああ、そんなこと校長が言ってたね」

「そう言えば、きょーちゃんバイトしてたよね?

 あれっていいの?」

「アルバイト許可書を書いたときは何も言われなかったけど……」

「優等生だからねきょーちゃんは」

「成績中の下でどこが優等生なのさ」

私が笑うと、仲間の一人の優花ちゃんが「成績以外全部だよ」と答えて笑った。

「じゃあ次はぜひとも成績でも優等生にならなきゃね」

そんな事を言ってみんなが笑う。

そんな幸せな帰り道だった。


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