硝子の恋
あの絵?

あの絵って、あのくれるって言ってたあの絵のこと?

「何で?くれるって言ってたじゃん?」

「うん、でも、あげることが出来なくなったんだ」

私は、誠君の横に絵があることに気がついた。

そして驚いた。

私が貰うことになっていた絵はびりびりに破かれて、黒く塗りつぶされて、落書きをされていた。

「山子」「死ね」「くせーんだよ」「学校くんな」等々

間違えなく、これは私への言葉だった。

となると藤井さん達がやったのだろう。

いつばれた?

私はこの絵をもらえる事を誰にも言ってないはずなのに。

「ゴメンな山下……」

「……誠君のせいじゃないし」

上手い言葉が出てこない。

多分今一番、ショックを受けているのは誠君だ。

でも、どうやってなぐさめていいか分からない。

「ゴメン、山下。書き直すから。

 書き直して、あげるから」

「ううん、いいよ、もう。誠君だって同じ絵は描けないでしょ?

 私はあの絵が気に入ってたの。だからもういいよ」

ぽつり。ぽつり。

「山下……泣いてるのか?」

「あ……」

自分でも気がつかなかった。

気がついたら泣いていた。

悲しい?悔しい?

多分違う。

私のせいで標的にされた絵がかわいそうで泣いているんだ。

ゴメンね誠君。

謝るのは私のほうだよ。

巻き込んでしまった。

藤井さん達のいじめに。

大丈夫だと思っていたのに。

「山下……お前のせいじゃないよ」

ううん、これは私のせい。

透明な涙が次から次へと溢れて、私はずっと準備室で泣いた。

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