硝子の恋
次のお客さんは、常連の60を過ぎた紳士的な外見のおじいさんだった。

前に私を『遠くにいる孫に似ている』と言ったおじいさんは、孫を見るような目ではなく、値踏みするようなにやにやした目で私をみていた。

今日もか……自然と体が重くなるのを感じた。
おじいさんの話を聞くのが苦痛なのではなく、おじいさんの目がどうしても嫌だった。

だから私はなるべく目をそらして話していたが、今日のおじいさんは大きな紙袋を持って現れた。

「今日は君にプレゼントを持ってきたよ」

おじいさんはそう言ってにまにまと笑いながら紙袋に手を突っ込んだ。

出てきたのはどこか高級銘柄のきんつばと、雪だるまアイス。

「君に食べて貰いたくて」

確かに、従業員がお客様から物を貰う行為は禁じられていない。

でも、なんか嫌な感じがした。

「じゃあ従業員でありがたくいただかせて貰います」

「従業員に買ったんじゃない!君に買ったんだ!!」

おじいさんはそう言ってカウンターに乗り上げきんつばと雪だるまアイスの入った紙袋を私につかませた。

一瞬、おじいさんの手に触れる。

汚いはずがないのに、触られるとそこからねっとりとした何かがはいずり回るな感覚が生まれた。

もらってしまったものは仕方ない。

私は仕方なしに貰ったきんつばを冷蔵庫に、アイスを冷凍庫に入れた。

事情を話せば矢野さんも店長も、パートの阿部さんも分かってくれるだろう。

矢野さんは前から事情を知っていて「困ったお客様だよね」と言ってくれていたし、店長にも事情は話してある。

……店長はここともう一つ近いところのチェーン店も任されており、ここに来ることも月半分しかない。

「アメリカンを貰おうか」

おじいさんは先ほどの事がなかったかのように静かに注文を言った。

……どうせアメリカンのお代わり自由で何時間も居座ってしゃべるんでしょ?

そう考えるとうんざりした。

「……で、結局その指輪は直したんだけど……」

おじさんの言葉を営業スマイルで受け流す。

きっぱりと断れたらどんなにいいだろう。

いや、もうこないでくださいと言えたらどんなに楽なんだろう。

私はそう思いながら、おじいさんの話を聞き流した。
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