硝子の恋
「おかえりなさい」

家に帰ると、お母さんが台所に立っていた。

「もうみんな食べちゃったから、あなたの分の洗い物は自分でやってね」

「うん、分かってる」

てゆーか、いっつもの事じゃん。何度も言われなくても分かってるよ。

レンジでおかずを温めて、もそもそと食べる。

そしてシンクにお弁当箱と食器を持って行って洗う。

うん、いつも通り。

食べ終えると、二階の自分の部屋に上がる。

カバンを開けてびっくりした。

「……今日はカエルか……」

カバンの中にはつぶれたカエルが入っていた。

教科書はあらかじめ防水スプレーをかけてあったから

(前にプールに捨てられた事もあったからスプレーはしておいて正解だったみたい)

ティッシュでふくだけで、カエルの体液も落ちたけど、やっぱり気持ち悪い。

また教科書買おうかな……。

本屋さんで注文すれば教科書が買えると知ったのはつい最近。

それまで、借りるか、いたずらされてぐしゃぐしゃな教科書で授業を受けていた。

何代目の教科書かなぁ?

教科書のカエルの液体は落ちたけれど、カバンに染みついた液体はなかなか落ちなかった。

「もしかして今日の『におう』ってこれの事だったのかなぁ?」

気づかなかった私も私だけど、もしかしたら、藤井さん達がいたずらで入れたのかも。

「どうして私ばっかりこんな目にあうんだろうなぁ……」

学校に行けばいじめられ、バイトでは嫌なお客さん。

ううん、今日はまだいい方だ。

「鏡子ー!電話よー!」

お母さんが一階から叫ぶ。

「だれからー?」

「なんだか年配の人から。学校の先生って言っているけど……」

学校の先生?誰だろ?

「分かったー。すぐ行くー」

部屋から出て、茶の間の電話の受話器を持った。

持った瞬間、凍り付いた。

「きょうこちゃん?おじさんが誰だかわかるよね?」

いつもにまにまと私を値踏みするようにみているおじいさんの声だった。

「ど……どうして……」

「いやー、探すのは大変だったよー。なにせ電話帳の『山下』を片っ端から探したんだからね」

異常だ。この人は異常だ。

私は恐怖で思わず受話器を落とした。


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