God bless you!~第15話「farewell~卒業」
〝右川カズミという彼女について〟



〝右川カズミという彼女について〟

結論から言う。
彼女は、普通じゃない。可愛い女の子でも、まともな人間でもない。
自称彼氏の俺が、屈辱の歴史に則り、彼女の悪質を暴露する。

俺にとって、彼女は〝顔の無い同級生〟という位置付けから始まった。
入学当初から彼女の奇行を様々に知らされ、さんざん名前を聞き、話題に触れ、そしておそらく最後に顔を見たのが、彼女である。
それまで頭の中、どんな女子なのかと想像だけは逞しく働かせていた。
彼女のトピックが立ち上がる度、そこにあるのは同級生女子の顔ではなく、小学生のガキの顔ばかりが浮かぶ。
理由は、聞いた話のすべてが非常にバカげていたからだ。
〝リュックで猫を飼っている〟〝学校に寝泊まりしている〟
そんなバカなという噂に紛れて、ただ1つ、気になる噂があった。

〝数学が抜群にできる〟

初めて面と向かって出会ったのは、職員室。
彼女はヘラヘラと英語の補習を受けていた。
英語が追試、国語も追試、数学以外の全てが恐ろしい結果だと、そこで初めて聞かされた。それを一向に恥じる風でもなく、彼女はヘラヘラと3回目の補習に燃え尽きているのだ。
それからというもの……怒り、諦め、同情、友情、愛情みたいなもの、年月をイタズラに重ねながら、それでも俺は数学以外の勉強を見てやる。
ほとんど答えを丸写しという荒行も1度や2度ではない。そんな俺に対して今まで1度たりとも、彼女から感謝の気持ちを伝えられた事は無かった。
思えば、高校生活3年間で、追試にならなかったのは、3年2学期の期末テストのみである。
受験に影響する最終評価地帯で生き延びたとは……思えば、なんて都合良くデキた生徒だろう。

1 彼女はモテるわけがない。
モテるとは少々趣が違うかもしれないが、彼女は先生を始め、先輩ウケは好い。女子でも男子でも、先生でさえも怖がりもせず、彼女は半分タメ口を使っていた。
先輩の教室に出向き、あるいは職員室に居座り、どこでも無邪気をひけらかす。そんな彼女を先生も先輩も、かなり可愛がっていたように思う。
俺が必死で作り上げた周囲との信頼関係を、いとも易々と飛び越え、いつのまにか話題の中心は彼女になっているという始末だ。
年上が得意なのには理由がある。
彼女は10年間、ひと回り年上の従兄弟に真剣に恋をしていた。
その従兄弟に彼女は全身全霊で尽くし、学校生活の全て、人生の全てを、その従兄弟を中心に決めている。全てにおいて出来上がっている大人の男性と比べられては、同級生が叶うわけがない。
唯一、大人びた先輩が、彼女にとっては身近な従兄弟らしき存在であったろうと推察する。
その扱いは同級生とはケタ違い。見渡せば、良好な関係を構築した先輩とは対照的に、同級生というだけで男子は、けちょんけちょんである。
ちょっとでも上から目線で晒そうものなら、バカにされ、罵られ、置き去りにされ、溜め池に突き落とされ、1ヶ月付き合った挙句にアッサリと振られた。塾仲間の1人は無謀にも彼女に勘違いし、何があったか知らないが、今現在では俺に同情するまでに至る程だ。
こんな彼女が、モテるはずがない。

そんな彼女に、真剣に好きだと告白した男の存在がある。
その男の性質上、周りから羨ましがられるのは必至だ。
大声で自慢するがいい。

2 彼女の見た目。
まず、背が低い。
彼女は身長148センチ。俺は、187センチ。
見れば見るほど、比べれば比べるほど……笑える。
着る物の事はわからないが、おそらく普通だろう。制服、体操服、1度だけ夏の私服も見たことがあった。Tシャツとジーンズという、当り前に普通。
身につけている物と言えば、俺がプレゼントしたペンダントは、今もその胸に健在である。
思えば1度だけ……体育の授業でプールに向かう水着姿を見た事があった。
50過ぎの先生に、いつも背中を向けていると言われているくらいだ。
確かに、凹凸が無い。背も小さいから、アヒルと一緒に泳ぐのが似合いそうな子供の水泳教室にしか見えなかった。
本人は背が低いのをやたら気にしている。
大好きな彼氏とつりあいたいから、ではない。
絶対誰にもナメられたくないから、である。
背丈と言うコンプレックスは、今まで何度もバトルの原因になってきた。
(俺もそうだった。)

では、顔はどうかと言えば、まず髪型は割りと短め。
少し茶色掛かって、基本いつも、もじゃもじゃ。
天然パーマというより、くせ毛という髪質にその原因があると思われる。
「最近は、鮫島ののちゃんを目指そうかな~と思ってさ♪」とか言っている。
「ののちゃんはAV女優じゃないよ。AKBの1人だよ」と、こっちが何も言わなくても先に教えてくる。それだって、本当かどうか怪しい。
いつだったか、芸能人なのに「政治家だよ~ん」と言って、こっちを混乱させてくれた過去があった。
そんな彼女が混乱すると、ぐしゃぐしゃに頭を掻く。
アホ毛がぴんぴん立って、ますます、もじゃもじゃ。
鮫島ホニャララさんは、絶対そんな事はしないと思うが。
では顔立ちはというと……くりっとして表情豊かな目元からは、黙っていれば、なかなか愛嬌がある。実際、俺の友人は、それと似たような事を言ってくれた事があった。
ふっくらした頬から唇にかけては、女子らしい無邪気が漂い、その口元は、見た目には不釣り合いの強い意志までも感じさせる。
だがその目は……人を欺く時は異様にギラつき、その口元は、人を罵るときは不埒に歪んだ。
食べる時には2倍に広がると言う事も合わせて、言及しておこう。
そのくせ、肝心な場面では、本音が言えない。いつまでたっても答えが聞こえてこなくて、こっちがイライラした事が何度もある。
こうなってくると、もはや顔立ちがどうこうという問題ではない。
その表情の変化を見逃さず、絶えず顔色を窺って警戒するという荒行が、こちら側の常となる。
黙ってしまえば、その意図を汲んでやるという思いやりが必要だった。
目が離せない。それを魅力というのなら、そうなのだろう。
「可愛いっていうより、どっちかっつ-と、チャーミングって言われたいな~」
本人は、そう主張する。
その魅力を例えるなら、個人的には……悔しいので、ここでは言及しないでおく。

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