God bless you!~第15話「farewell~卒業」
そこへ、阿木と桂木が加わった。
この後、桂木は、「部活のよっちゃん達と集まる事になってる」とか言ってる。阿木は阿木で、「私も友達と、かな」と来た。
阿木とは、大学でも縁が続く。「一体、いつまで続くのかしらね」と呟くもんだから、「本当だよな」と親しみを込めて相槌を打ってみたのだが、
「いえ、沢村くんじゃなくて。右川さんと」
いくら中学時代から続いてるからって……大学で俺と続く縁よりも、そこを通じて続く右川との縁を、阿木は優先させた……。
ここまでくると、いっそ清々しい。
右川は、「はい」と、桂木からチョコをもらっている。
桂木が「ほい」と何処へ放り投げても、その2倍に広がる口で、「うりゃ」と、軽~るくキャッチ。相当、餌付けされたと見た。
私物を整理する傍ら、ついでに持ち帰る備品を漁っていると、「右川先輩、このへん、もう何でも持って帰っていいですよ」と、右川専用の領域を浅枝が指し示す。右川は、「うん」と素直に頷いて……お菓子以外は、そっちのけにした。残酷なくらいに正直過ぎる。
俺は、1番使ったシャーペンを貰った。
「まるで甲子園よね」と阿木は、小さいほうの電卓を取る。
桂木は、「これなんか、もう目盛りが消えてるんだけど」と物差しを握った。
会が終わり、バタバタと後片付けを済ませ、最後まで気を遣われたのか、右川と2人、取り残される。急に人数が居なくなったせいなのか、また急に冷え込んできたと思ったら、外は雨が降る。
「傘」
「持ってる」
というか、忘れ物の置き傘が溢れている。
1本ぐらい消えても、誰も気付かないだろう。
友達にも、知り合いにも、先生にも、後輩にも、何もかもに別れを告げて、俺達は校舎を後にした。
その後、程々に元気を取り戻した右川に誘われて、海川の家に行く事になる。俺は同中仲間にもどこかに誘われたが、断った。
ノリも来ないというのに俺が行く義理はない。
今頃、ノリは彼女と会っている。剣持と折山も、どこかで仲良くやっているようだし。黒川と永田は、「くそ役に立たない、カラオケ」「女子んとこに乱入すんぞッ!沢村も来いよッ!」と来た。
頼まれても、行かねーワ。
こうしている間にも他の仲間から、2次会で合流しようとか、夜までには必ず集まれとか、次から次へとメールだけは入ってくる。
今日は誰でも来い。
そんな雰囲気に呑まれていい日だ。重森でも許そう。
海川の家は、商店街のド真ん中で喫茶店をやっているらしい。
右川に教えられて来てみたのだが、ここら辺は通り道からは少し奥まっていて、普段あんまり通らない。海川は、親が町内会や商店街の色々な役目を担っているという。それで町の事に詳しかったのかと納得がいった。
店内は貸し切り状態。そこに進藤も松倉もいた。
「「らす」」と、息の合った挨拶をくれる。
右川と2人、カウンター席に着いた。
「アギングも誘ったんだけど、今日は来れないんだって」
確か、友達と過ごすと言ってたような。
そこへ海川がやってきて、「こんな事言っていいのかなぁ」と、ジュースを出しながら、「阿木さんて、お兄さんとか居ないよね?」
中学から一緒の右川が、「居ないよ~ん」
椅子と一緒にくるくると回る。
「誰だか、男の人と一緒にいる所を見かけたんだよね」
「誰?」と俺は聞き返した。
右川も遊んでいる場合じゃないと悟ったのか、動きを止める。
「大人のひと。僕は知らない人だったよ」
永田先輩が浮かんだ。右川もだろう。2人で顔を見合わせた。
それはもう有り得ない。
「お父さんとかじゃなかったぁ~?」
「そんなの、何となく分かるよ」
そっか……って、当たり前だろ。
だったら、わざわざ内緒で話したりなんかしない。
「ほんと油断ならないよぉ~。週刊女性自身、怖わっ」
「そろそろ週刊文春でもいいんじゃないか」とか、言いたくなる。
「だーかーらー、アエラにしてよって」「まだ言う?」と、海川に右川が突っ込んだ。
海川以外、カウンターの周りに誰もいないのを確認して、俺は本題に入った。
「女性自身といえばさ、おまえん家って、俺の扱いどうなってんの」
「てゆうか女性自身、関係無いよ。アエラだよ。海川の親ってさ、町会長なんだよねーん」
「それも関係ないだろ」
いつまでも騙されると思うな。
「今日おまえの母親と話した」
カク乱どころじゃなくなったのか、「え?」と驚いている。
「何を?」と怯えて問い詰める右川に、母親との今日の会話を聞かせた。
「俺は、ウチの親に話してもいいかと思ったけど」
何故か右川はうろたえる。
……怪しい。もっと突っ込んでやろうとした所、すぐにカラオケが始まり、松倉のアニソン・メドレーが響き渡った。右川はそんな騒々しい中、誰かの電話を取っている。
ハルミ先生か。耳を澄まして聞いていると、大学の話だった。
親の話はまた誰も居ないときに、とことん突っ込むとしよう。俺は明日から教習所通い。卒業しても、まだまだ勉強。
右川の電話が終わるのを待って、
「あ、俺のパソコン返せよ」
「くれるって言ったじゃん」
「持ってろとは言ったけど、やるとは言ってない」
ニンジンが、パソコンから車に化けた。だから未だに必要だ。
「とうとう車を買ったんだよ」
それが言いたかったのだ。
免許が取れたら右川を乗せて、何処でも行きたい所に連れてってやろう。
だから、メゲずに頑張れ……それを言ってやろうとしたら、「パソコンも車も、どうせ買ったのは、よしこでしょ」と憎憎しい事を言い出したので、真面目な激励計画はそこで終わった。
不思議な事に、右川の受験の話が1度も出ない。
みんな右川に気を使っているのかもしれない。
やっぱり妬ましい。そして、その友人掌握術は羨ましい限りだ。
そんな事を考えながら不意に右川を見ると……マズイ!という顔をした。
そこから恥ずかしげも無く、こっちの肩にもたれてくる。海川の目の前だというのに。珍しいこともあると思った。イヤ、何かあるな……だった。
俺は構えた。
直感だ。
恐らく、さっきの憎憎しい事を言うタイミングが早かった。
案の定、
「……その車ってさ、なに買ったの?」
人前で俺の機嫌を取ってでも、それだけは聞いておきたい、と欲が丸出し。
手に取るようにわかる自分が哀しい。
「買ったのはよしこだから、教えない」
冷静に返り討ちしてやった。
「アウディ?ティアナ?シーマ?アテンザ?プリウス?セルシオ?」と懲りてない。
そのラインナップの根拠は知りたい気もするが、無視。無視。無視。
てゆうか、アウディなんか買える訳ないだろ。
海川が「免許取れたら、何処行くの?」と聞いてくれた。
車種をはっきり言わない事に業を煮やしてか、「45だから、熱海だよ」と右川が俺の肩を放り投げる。まったく懲りてない。絶対乗せてやらない!
そこで俺の携帯が鳴った。森畑だった。
親とケンカして医学部を蹴った。4月から港北大の経済学部である。
ヤツも今日が卒業式だ。
強引に右川が替わった。「わかってると思うけど、合コンだよ!」
すると海川をはじめ、松倉たちが一斉に、「「「右川決まったの?」」」と聞いてきた。
やはり友、息の合った合唱の瞬間だ。
何も決まっていない。まだ何処の大学の女の子とやるのかも決まっていない合コンだった。森畑も電話の向こうで呆れているだろう。
俺も右川も、付き合ってるのをスッとぼけて参加だと言ったら、それを聞いた周りは全員引いた。
そのまま、一部の仲間に紛れて2次会3次会へともつれこみ、途中からそこへ剣持と折山が合流、何故か藤谷も加わって、戦いの火蓋はここでも切って落とされた。
あれだけみんなが気を使っていたのは何だったのか。
「彼氏が国立で、その彼女が浪人じゃやっぱ釣り合いが悪いよね」
「そだね。あんたがビッチしてる間にこっちは合コン。超ド級のイケメン捕まえてお先にーっ!て感じかな」
一斉にみんなが俺を見た。
最後の大売り出しか。
元気だから……まあいいけど。
決まったら……覚えてろよ。
この後、桂木は、「部活のよっちゃん達と集まる事になってる」とか言ってる。阿木は阿木で、「私も友達と、かな」と来た。
阿木とは、大学でも縁が続く。「一体、いつまで続くのかしらね」と呟くもんだから、「本当だよな」と親しみを込めて相槌を打ってみたのだが、
「いえ、沢村くんじゃなくて。右川さんと」
いくら中学時代から続いてるからって……大学で俺と続く縁よりも、そこを通じて続く右川との縁を、阿木は優先させた……。
ここまでくると、いっそ清々しい。
右川は、「はい」と、桂木からチョコをもらっている。
桂木が「ほい」と何処へ放り投げても、その2倍に広がる口で、「うりゃ」と、軽~るくキャッチ。相当、餌付けされたと見た。
私物を整理する傍ら、ついでに持ち帰る備品を漁っていると、「右川先輩、このへん、もう何でも持って帰っていいですよ」と、右川専用の領域を浅枝が指し示す。右川は、「うん」と素直に頷いて……お菓子以外は、そっちのけにした。残酷なくらいに正直過ぎる。
俺は、1番使ったシャーペンを貰った。
「まるで甲子園よね」と阿木は、小さいほうの電卓を取る。
桂木は、「これなんか、もう目盛りが消えてるんだけど」と物差しを握った。
会が終わり、バタバタと後片付けを済ませ、最後まで気を遣われたのか、右川と2人、取り残される。急に人数が居なくなったせいなのか、また急に冷え込んできたと思ったら、外は雨が降る。
「傘」
「持ってる」
というか、忘れ物の置き傘が溢れている。
1本ぐらい消えても、誰も気付かないだろう。
友達にも、知り合いにも、先生にも、後輩にも、何もかもに別れを告げて、俺達は校舎を後にした。
その後、程々に元気を取り戻した右川に誘われて、海川の家に行く事になる。俺は同中仲間にもどこかに誘われたが、断った。
ノリも来ないというのに俺が行く義理はない。
今頃、ノリは彼女と会っている。剣持と折山も、どこかで仲良くやっているようだし。黒川と永田は、「くそ役に立たない、カラオケ」「女子んとこに乱入すんぞッ!沢村も来いよッ!」と来た。
頼まれても、行かねーワ。
こうしている間にも他の仲間から、2次会で合流しようとか、夜までには必ず集まれとか、次から次へとメールだけは入ってくる。
今日は誰でも来い。
そんな雰囲気に呑まれていい日だ。重森でも許そう。
海川の家は、商店街のド真ん中で喫茶店をやっているらしい。
右川に教えられて来てみたのだが、ここら辺は通り道からは少し奥まっていて、普段あんまり通らない。海川は、親が町内会や商店街の色々な役目を担っているという。それで町の事に詳しかったのかと納得がいった。
店内は貸し切り状態。そこに進藤も松倉もいた。
「「らす」」と、息の合った挨拶をくれる。
右川と2人、カウンター席に着いた。
「アギングも誘ったんだけど、今日は来れないんだって」
確か、友達と過ごすと言ってたような。
そこへ海川がやってきて、「こんな事言っていいのかなぁ」と、ジュースを出しながら、「阿木さんて、お兄さんとか居ないよね?」
中学から一緒の右川が、「居ないよ~ん」
椅子と一緒にくるくると回る。
「誰だか、男の人と一緒にいる所を見かけたんだよね」
「誰?」と俺は聞き返した。
右川も遊んでいる場合じゃないと悟ったのか、動きを止める。
「大人のひと。僕は知らない人だったよ」
永田先輩が浮かんだ。右川もだろう。2人で顔を見合わせた。
それはもう有り得ない。
「お父さんとかじゃなかったぁ~?」
「そんなの、何となく分かるよ」
そっか……って、当たり前だろ。
だったら、わざわざ内緒で話したりなんかしない。
「ほんと油断ならないよぉ~。週刊女性自身、怖わっ」
「そろそろ週刊文春でもいいんじゃないか」とか、言いたくなる。
「だーかーらー、アエラにしてよって」「まだ言う?」と、海川に右川が突っ込んだ。
海川以外、カウンターの周りに誰もいないのを確認して、俺は本題に入った。
「女性自身といえばさ、おまえん家って、俺の扱いどうなってんの」
「てゆうか女性自身、関係無いよ。アエラだよ。海川の親ってさ、町会長なんだよねーん」
「それも関係ないだろ」
いつまでも騙されると思うな。
「今日おまえの母親と話した」
カク乱どころじゃなくなったのか、「え?」と驚いている。
「何を?」と怯えて問い詰める右川に、母親との今日の会話を聞かせた。
「俺は、ウチの親に話してもいいかと思ったけど」
何故か右川はうろたえる。
……怪しい。もっと突っ込んでやろうとした所、すぐにカラオケが始まり、松倉のアニソン・メドレーが響き渡った。右川はそんな騒々しい中、誰かの電話を取っている。
ハルミ先生か。耳を澄まして聞いていると、大学の話だった。
親の話はまた誰も居ないときに、とことん突っ込むとしよう。俺は明日から教習所通い。卒業しても、まだまだ勉強。
右川の電話が終わるのを待って、
「あ、俺のパソコン返せよ」
「くれるって言ったじゃん」
「持ってろとは言ったけど、やるとは言ってない」
ニンジンが、パソコンから車に化けた。だから未だに必要だ。
「とうとう車を買ったんだよ」
それが言いたかったのだ。
免許が取れたら右川を乗せて、何処でも行きたい所に連れてってやろう。
だから、メゲずに頑張れ……それを言ってやろうとしたら、「パソコンも車も、どうせ買ったのは、よしこでしょ」と憎憎しい事を言い出したので、真面目な激励計画はそこで終わった。
不思議な事に、右川の受験の話が1度も出ない。
みんな右川に気を使っているのかもしれない。
やっぱり妬ましい。そして、その友人掌握術は羨ましい限りだ。
そんな事を考えながら不意に右川を見ると……マズイ!という顔をした。
そこから恥ずかしげも無く、こっちの肩にもたれてくる。海川の目の前だというのに。珍しいこともあると思った。イヤ、何かあるな……だった。
俺は構えた。
直感だ。
恐らく、さっきの憎憎しい事を言うタイミングが早かった。
案の定、
「……その車ってさ、なに買ったの?」
人前で俺の機嫌を取ってでも、それだけは聞いておきたい、と欲が丸出し。
手に取るようにわかる自分が哀しい。
「買ったのはよしこだから、教えない」
冷静に返り討ちしてやった。
「アウディ?ティアナ?シーマ?アテンザ?プリウス?セルシオ?」と懲りてない。
そのラインナップの根拠は知りたい気もするが、無視。無視。無視。
てゆうか、アウディなんか買える訳ないだろ。
海川が「免許取れたら、何処行くの?」と聞いてくれた。
車種をはっきり言わない事に業を煮やしてか、「45だから、熱海だよ」と右川が俺の肩を放り投げる。まったく懲りてない。絶対乗せてやらない!
そこで俺の携帯が鳴った。森畑だった。
親とケンカして医学部を蹴った。4月から港北大の経済学部である。
ヤツも今日が卒業式だ。
強引に右川が替わった。「わかってると思うけど、合コンだよ!」
すると海川をはじめ、松倉たちが一斉に、「「「右川決まったの?」」」と聞いてきた。
やはり友、息の合った合唱の瞬間だ。
何も決まっていない。まだ何処の大学の女の子とやるのかも決まっていない合コンだった。森畑も電話の向こうで呆れているだろう。
俺も右川も、付き合ってるのをスッとぼけて参加だと言ったら、それを聞いた周りは全員引いた。
そのまま、一部の仲間に紛れて2次会3次会へともつれこみ、途中からそこへ剣持と折山が合流、何故か藤谷も加わって、戦いの火蓋はここでも切って落とされた。
あれだけみんなが気を使っていたのは何だったのか。
「彼氏が国立で、その彼女が浪人じゃやっぱ釣り合いが悪いよね」
「そだね。あんたがビッチしてる間にこっちは合コン。超ド級のイケメン捕まえてお先にーっ!て感じかな」
一斉にみんなが俺を見た。
最後の大売り出しか。
元気だから……まあいいけど。
決まったら……覚えてろよ。