God bless you!~第15話「farewell~卒業」
★★★右川カズミですが・・・・・・取り巻く世界の全てが〝沢村のついで〟に変わっている
あたしは、朝10時頃までグッスリだった。
何でだろ。
目覚めて後。
あたしを取り巻く世界の全てが〝沢村のついで〟に変わっている。
その沢村は、「今日も教習所なんです」と、朝7時頃に起きて、制服のままで向かったらしい。真面目過ぎて、神だよ。
〝沢村のついで〟劇場。
始まり始まり。
まずハルミが、「最近滅多にお目にかかれない、しっかりした良い子だよね」と旦那の前でヌケヌケと、沢村を褒めた。その旦那も旦那で、「俺が沢村くんの邪魔をしちゃったのかな」と神妙だった。
続けて、「カズミは、全部、彼の言うとおりに動けばいい」
さらに、「もっと沢村くんを大事にしなきゃ」
トドメに、「だって結婚するんだろ?」
そこでハルミと2人、顔を見合わせたと思ったら、そこから大爆笑。転げ回って、笑い散らした。ゲラゲラ、ひーひーと、いつまでも止まらない。
あたしだけが、卵と一緒になって固まっている。
昨日、何かがあった。
何で2人がそこまで知ってるのか。当然、それを知りうる人物が言わなければ、知るはずが無い。メラメラした。口の軽いバカ正直45歳。
あいつ、絶対許さない!
納豆が泡だらけになった所へ、ハルミがお味噌汁を運んでやってきた。
「ついさっき、お母さんから電話あったよ」
「潮音女子短大、合格したって」と言って卵焼きの前、小さな箱を置く。
「2人から、合格祝い」
箱を空けたら、腕時計だった。
SEIKO WIRED f TOKYO GIRL MIX
メタリックなシルバータイプ。時計盤は丸く、3,6,9、10、11,12だけが数字で示されているという独特の文字盤デザインが目を引く。
「いいの?」
「ムダなお金使うなって、また怒られちゃうかな」
あたしは、すぐ腕に付けた。
「可愛い」
腕回りを変えただけ。
なのに、身体のそこだけ急に大人びて見える気がした。
今はその1部だけど、いつかこの時計にふさわしい〝私〟にならなくちゃ。
合格と憧れ、そして新しいチャレンジまでもが同時に飛び込んできた。
こんな、思いがけなく。
「ありがと。もう……ありがと」
涙が溢れて止まらなくなった。
「すぐに沢村くんに報告しろよ」って、やっぱりそう来ますか。
ご飯もそこそこ、教習所の沢村に向けて、1行報告メールを出した。何だか待ちきれない。もう今すぐにでも会いたいと思い始める。
「これからの事だけど、どうする?」
「どっか遊びに行こうかな~♪」
「じゃなくて」
残りの受験の話だった。
あと2つ、試験を申し込んでいる大学が残っているけれど、もう受ける気なんか無かった。自分と同じように、早く決めたくて悩んでいるコが居るかと思うと、気が乗らない。それを言うと、ハルミ先生は、「そう」と簡単に受け流して、キッチンに消えた。
今日はすぐ家には帰らないで、沢村との待ち合わせまで何処かで時間をつぶそうと考えた。
すると、「じゃ、待ってる間、デパートとか行く?」
ハルミ先生が車で連れてってくれると言う。
買い物なんか久しぶりだ。何も買わなくてもいいけど。
時計だけで充分嬉しかったから。
ショッピング・モールのカフェでお茶した時、
「潮音で決めて、いいの?」と、ハルミ先生が今更な事を聞いてきた。
「何で?」
「あんまり評判の良いとこじゃないから。他の所が良いかと思って。2次募集もまだあるし」
「何処に決まっても同じだよ。あたし、自由に動きたいだけだから」
「自分探しか。ブレないね」
「うん」と素直に頷いた。
ハルミ先生とは、これまで散々闘ったけれど、結果1番心配してくれて、動いてくれた先生だと思う。
試験の出来が悪くて泣きが入った時は、真夜中に車を飛ばして、埼玉くんだりまで来てくれた。
受験票を間違った事もある。『この大学とあたしはそういう運命なんだよ。もう帰る』と携帯越しに不貞腐れていると、『そこで待ってなさい。今からイケメンが対処するから』と塾の事務員さんを手続きに走らせてくれたり。
(後で見たら、昭和の感じで確かにイケてた。)
こんなプレゼントまで用意してくれて……。
「ほんとに、色々と、ありがと」
ハルミ先生は笑いながら、あたしの頭をくしゃっと撫でた。
「短大に行ってからでも、就職でも、何でも相談に乗るから」と言った所で、ハルミ先生は、またクスッと笑って、
「ま、あたしなんか居なくても、彼氏が心配してくれるか」
それに頷きながらも、そういうのとは何か違うんだよなーだった。
あたしも沢村を心配になったりはする。それは、沢村が不安になった事を目の当たりにした時に沸き起こる感情だ。最初から、あたしがこいつの心配をします、面倒をみます、と決め付けてやっている事ではない。
沢村は、口グセのように、「俺がいつもこんなに気にしてるのに」と言うが、その心配と優しさの殆どは余計な事、と正直言いたくなる。
そんなにあたしは頼りないのか!と叫びたい。
同時に、沢村自身、人を心配する余裕があるのかと問いたい。
沢村だって、キレたり、はっきり言わなかったり、心配の要素はたくさんあると思う。普段から、キレたら心配だキレたら心配だ、と言われ続けていたら、「それは本当にキレた時だけ心配してくれ」と言いたくもならないか?
そんなあたしの気持ちを誰もわかってくれないな、と、それだけが残念だ。
ハルミ先生と別れて、沢村と待ち合わせの公園に急ぐ。
昨日の引き続き、沢村もあたしも制服のままだった。
1日過ぎただけ。何が変わったワケでもないのに、違和感がある。
「やっと渡せるよ」と、沢村が何やらくれた。
今日はプレゼントに縁があるなと思って開けると、シンプルなシルバーのブレスレットだった。
聞けば、今頃になって、1月の誕生日分らしい。
本当にこいつの趣味なのか?疑いたくなる程またまた悪くない。
シルバーのラインの中に、小さいブルーのガラス玉が1つだけ、深い色の光を放っている。ハルミ先生の腕時計に重ねて着けた。
「よしこの金じゃないぞ」
港北大に決まって以後、教習所と掛け持ちで短期のバイトをやったらしかった。それだったら合格祝い、自分の欲しい物を何でも買えばいいのにね。
これこそが、あたしの言う心配であり優しさだと思う。
とりあえず、このプレゼント、「冴えてるね」と褒めた。
「それは感謝の言葉として、今ここでふさわしいか?」
ありがとう。大事にするね。好きだとか何とか、それが聞きたいんだろ?
だった。
そうはいくか。けけけ。
3月の午後4時。まだ冷える。あたりは少しずつ暗くなっていく。
そこから2人、帰り道に向かって歩き出した。
公園の誰も居ない遊歩道、途中で何度も立ち止まる。
何度もキスを繰り返した。
「帰りたくないよな」
珍しく、あたしも同じ事を思った。ゆっくり、ゆっくり、歩こう。
沢村は、あのレポートがまだ頭にこびりついているらしい。
「おまえからマジで1度も好きだと聞いてない」と、ここに来て、今更の権利を主張してくる。
「言え」「嫌だ」「いいから、ちょっと言えよ」「無理」と、ガンガン続いた。
「てゆうか、あんた、アキちゃん達に余計な事ベラベラしゃべったでしょ」
「事実だろ」
「信じらんない。今日からあんたはゴミだ」
そんな言い合いをしながら、のんびり立ち止まり、コンビニに立ち寄り、まったり歩き、駅についたら、もう7時になっていた。
「家まで行こうか」と言い出した沢村を、「本当に遅くなるよ」と止める。
この制服も今日で本当に最後だな。
と思ったら、そういえば2人で写真を撮った事が無いと思いついて、ゲーセンのプリクラで撮ろうという事になった。
帰りの電車の中。
何枚も撮ったプリクラが手の中にある。
「頭を切り取って遊んでやる~♪」と言った時、「ゴミにするのはいいけど、アキラにだけはするな」と、キレた沢村の顔を思い出して笑った。
そのリアクション、冴えてるね。
あたしが通う大学は、評判とか先行きとか気になる事もあるけれど、港北大に近くて、それが嬉しくて……悔しいな。
沢村の写真が、ゴミになる日がいつか来るだろうか。
もう、ありえないかも。
今はもう、あたしだけの神様だ!とさえ思う。
だが、それは、あたしの思い上がりだった。
〝潮音女子短期大学・入学式〟
この日から、それを思い知る日々が始まる。
<Fin>
.:*゚..:。:. ☆o。.:*゚:.。:. ゚・*:.。..。.:*・゚ o☆.:*゚..:。:. ゚・*:.。..。.:*・゚.:*゚
感謝&これから
.:*゚..:。:. ☆o。.:*゚:.。:. ゚・*:.。..。.:*・゚ o☆.:*゚..:。:. ゚・*:.。..。.:*・゚.:*゚
お付き合い下さった方々、ありがとうございました。
少数精鋭(笑)とても勇気付けられました。
しばらくお休みを頂いて後、また始めたいと思います。
2人のキャンパスライフをお楽しみ下さい。
またね~♪
何でだろ。
目覚めて後。
あたしを取り巻く世界の全てが〝沢村のついで〟に変わっている。
その沢村は、「今日も教習所なんです」と、朝7時頃に起きて、制服のままで向かったらしい。真面目過ぎて、神だよ。
〝沢村のついで〟劇場。
始まり始まり。
まずハルミが、「最近滅多にお目にかかれない、しっかりした良い子だよね」と旦那の前でヌケヌケと、沢村を褒めた。その旦那も旦那で、「俺が沢村くんの邪魔をしちゃったのかな」と神妙だった。
続けて、「カズミは、全部、彼の言うとおりに動けばいい」
さらに、「もっと沢村くんを大事にしなきゃ」
トドメに、「だって結婚するんだろ?」
そこでハルミと2人、顔を見合わせたと思ったら、そこから大爆笑。転げ回って、笑い散らした。ゲラゲラ、ひーひーと、いつまでも止まらない。
あたしだけが、卵と一緒になって固まっている。
昨日、何かがあった。
何で2人がそこまで知ってるのか。当然、それを知りうる人物が言わなければ、知るはずが無い。メラメラした。口の軽いバカ正直45歳。
あいつ、絶対許さない!
納豆が泡だらけになった所へ、ハルミがお味噌汁を運んでやってきた。
「ついさっき、お母さんから電話あったよ」
「潮音女子短大、合格したって」と言って卵焼きの前、小さな箱を置く。
「2人から、合格祝い」
箱を空けたら、腕時計だった。
SEIKO WIRED f TOKYO GIRL MIX
メタリックなシルバータイプ。時計盤は丸く、3,6,9、10、11,12だけが数字で示されているという独特の文字盤デザインが目を引く。
「いいの?」
「ムダなお金使うなって、また怒られちゃうかな」
あたしは、すぐ腕に付けた。
「可愛い」
腕回りを変えただけ。
なのに、身体のそこだけ急に大人びて見える気がした。
今はその1部だけど、いつかこの時計にふさわしい〝私〟にならなくちゃ。
合格と憧れ、そして新しいチャレンジまでもが同時に飛び込んできた。
こんな、思いがけなく。
「ありがと。もう……ありがと」
涙が溢れて止まらなくなった。
「すぐに沢村くんに報告しろよ」って、やっぱりそう来ますか。
ご飯もそこそこ、教習所の沢村に向けて、1行報告メールを出した。何だか待ちきれない。もう今すぐにでも会いたいと思い始める。
「これからの事だけど、どうする?」
「どっか遊びに行こうかな~♪」
「じゃなくて」
残りの受験の話だった。
あと2つ、試験を申し込んでいる大学が残っているけれど、もう受ける気なんか無かった。自分と同じように、早く決めたくて悩んでいるコが居るかと思うと、気が乗らない。それを言うと、ハルミ先生は、「そう」と簡単に受け流して、キッチンに消えた。
今日はすぐ家には帰らないで、沢村との待ち合わせまで何処かで時間をつぶそうと考えた。
すると、「じゃ、待ってる間、デパートとか行く?」
ハルミ先生が車で連れてってくれると言う。
買い物なんか久しぶりだ。何も買わなくてもいいけど。
時計だけで充分嬉しかったから。
ショッピング・モールのカフェでお茶した時、
「潮音で決めて、いいの?」と、ハルミ先生が今更な事を聞いてきた。
「何で?」
「あんまり評判の良いとこじゃないから。他の所が良いかと思って。2次募集もまだあるし」
「何処に決まっても同じだよ。あたし、自由に動きたいだけだから」
「自分探しか。ブレないね」
「うん」と素直に頷いた。
ハルミ先生とは、これまで散々闘ったけれど、結果1番心配してくれて、動いてくれた先生だと思う。
試験の出来が悪くて泣きが入った時は、真夜中に車を飛ばして、埼玉くんだりまで来てくれた。
受験票を間違った事もある。『この大学とあたしはそういう運命なんだよ。もう帰る』と携帯越しに不貞腐れていると、『そこで待ってなさい。今からイケメンが対処するから』と塾の事務員さんを手続きに走らせてくれたり。
(後で見たら、昭和の感じで確かにイケてた。)
こんなプレゼントまで用意してくれて……。
「ほんとに、色々と、ありがと」
ハルミ先生は笑いながら、あたしの頭をくしゃっと撫でた。
「短大に行ってからでも、就職でも、何でも相談に乗るから」と言った所で、ハルミ先生は、またクスッと笑って、
「ま、あたしなんか居なくても、彼氏が心配してくれるか」
それに頷きながらも、そういうのとは何か違うんだよなーだった。
あたしも沢村を心配になったりはする。それは、沢村が不安になった事を目の当たりにした時に沸き起こる感情だ。最初から、あたしがこいつの心配をします、面倒をみます、と決め付けてやっている事ではない。
沢村は、口グセのように、「俺がいつもこんなに気にしてるのに」と言うが、その心配と優しさの殆どは余計な事、と正直言いたくなる。
そんなにあたしは頼りないのか!と叫びたい。
同時に、沢村自身、人を心配する余裕があるのかと問いたい。
沢村だって、キレたり、はっきり言わなかったり、心配の要素はたくさんあると思う。普段から、キレたら心配だキレたら心配だ、と言われ続けていたら、「それは本当にキレた時だけ心配してくれ」と言いたくもならないか?
そんなあたしの気持ちを誰もわかってくれないな、と、それだけが残念だ。
ハルミ先生と別れて、沢村と待ち合わせの公園に急ぐ。
昨日の引き続き、沢村もあたしも制服のままだった。
1日過ぎただけ。何が変わったワケでもないのに、違和感がある。
「やっと渡せるよ」と、沢村が何やらくれた。
今日はプレゼントに縁があるなと思って開けると、シンプルなシルバーのブレスレットだった。
聞けば、今頃になって、1月の誕生日分らしい。
本当にこいつの趣味なのか?疑いたくなる程またまた悪くない。
シルバーのラインの中に、小さいブルーのガラス玉が1つだけ、深い色の光を放っている。ハルミ先生の腕時計に重ねて着けた。
「よしこの金じゃないぞ」
港北大に決まって以後、教習所と掛け持ちで短期のバイトをやったらしかった。それだったら合格祝い、自分の欲しい物を何でも買えばいいのにね。
これこそが、あたしの言う心配であり優しさだと思う。
とりあえず、このプレゼント、「冴えてるね」と褒めた。
「それは感謝の言葉として、今ここでふさわしいか?」
ありがとう。大事にするね。好きだとか何とか、それが聞きたいんだろ?
だった。
そうはいくか。けけけ。
3月の午後4時。まだ冷える。あたりは少しずつ暗くなっていく。
そこから2人、帰り道に向かって歩き出した。
公園の誰も居ない遊歩道、途中で何度も立ち止まる。
何度もキスを繰り返した。
「帰りたくないよな」
珍しく、あたしも同じ事を思った。ゆっくり、ゆっくり、歩こう。
沢村は、あのレポートがまだ頭にこびりついているらしい。
「おまえからマジで1度も好きだと聞いてない」と、ここに来て、今更の権利を主張してくる。
「言え」「嫌だ」「いいから、ちょっと言えよ」「無理」と、ガンガン続いた。
「てゆうか、あんた、アキちゃん達に余計な事ベラベラしゃべったでしょ」
「事実だろ」
「信じらんない。今日からあんたはゴミだ」
そんな言い合いをしながら、のんびり立ち止まり、コンビニに立ち寄り、まったり歩き、駅についたら、もう7時になっていた。
「家まで行こうか」と言い出した沢村を、「本当に遅くなるよ」と止める。
この制服も今日で本当に最後だな。
と思ったら、そういえば2人で写真を撮った事が無いと思いついて、ゲーセンのプリクラで撮ろうという事になった。
帰りの電車の中。
何枚も撮ったプリクラが手の中にある。
「頭を切り取って遊んでやる~♪」と言った時、「ゴミにするのはいいけど、アキラにだけはするな」と、キレた沢村の顔を思い出して笑った。
そのリアクション、冴えてるね。
あたしが通う大学は、評判とか先行きとか気になる事もあるけれど、港北大に近くて、それが嬉しくて……悔しいな。
沢村の写真が、ゴミになる日がいつか来るだろうか。
もう、ありえないかも。
今はもう、あたしだけの神様だ!とさえ思う。
だが、それは、あたしの思い上がりだった。
〝潮音女子短期大学・入学式〟
この日から、それを思い知る日々が始まる。
<Fin>
.:*゚..:。:. ☆o。.:*゚:.。:. ゚・*:.。..。.:*・゚ o☆.:*゚..:。:. ゚・*:.。..。.:*・゚.:*゚
感謝&これから
.:*゚..:。:. ☆o。.:*゚:.。:. ゚・*:.。..。.:*・゚ o☆.:*゚..:。:. ゚・*:.。..。.:*・゚.:*゚
お付き合い下さった方々、ありがとうございました。
少数精鋭(笑)とても勇気付けられました。
しばらくお休みを頂いて後、また始めたいと思います。
2人のキャンパスライフをお楽しみ下さい。
またね~♪