トリップしたら国王の軍師に任命されました。

 明日香が眠るのを見届け、ジェイルはそっと部屋の外に出た。

「下手人は見つかったか」

 廊下を歩く彼がそう呟くと、柱の陰からバックスが現れた。下手人とはもちろん、明日香の腕を斬りつけた人物のことである。

「それが、まだ」

「そうか」

 短く返事をしたジェイルは、ひとりで考え込む。

(今回の痛み分けは、突然攻め込まれて慌てたこちらが悪かった。決してアスカのせいではない)

 軍師という肩書のせいで、明日香に批判の矛先が向くのは仕方がない。けれど彼女は元々普通の女性だった。伝説の軍師などという奇跡の存在ではないのだ。

 戦は不測の事態が起きるもの。常勝できる保証はない。いつかこんなふうに敗北を喫したとき、明日香が国民にどう思われるか。

 まったく考えないわけではなかったが、なんとなく楽観視していたことを、ジェイルは後悔した。

(あんな傷を負う前に止められれば……)

 そして、軍師としての明日香の力を誰よりも、自分が頼りにしていたことに気づく。

「此度のこと、国王陛下はどうお考えですか」

 後ろからついてくるバックスに問われ、ジェイルは足を止めた。

「どう、とは?」

「カルボキシル軍は、まるでこちらの計画を読んでいたかのようでしたが」
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